都橋探偵事情『座視』

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「伊勢佐木中央署だ。動くな、動くと撃つぞ。冗談じゃねえぞ。こいつは本当に撃ち殺すぞ。いいか、昨夜からずっと張っていた。客から情報仕入れて来ている。客は全て署で待機してもらっている。随分とあくどく稼いでるじゃねえか。税金だと思って全部出せ。責任者誰だ?お前か。俺のことは知ってるな。俺に捕まって運がいいと思えよ、吉崎組に知れたらお前ら全員埋められてたぞ。よーし連れてけ」  待機していた警官五人が男三人と女を逮捕した。チンピラがバカラ賭博を開いている情報があった。ほっといてもいいが吉崎組に知れたら大事件に発展する。その前に潰しておくことを考えた。チンピラでも親がいる。足を洗い堅気で成功した若者もいる。無駄死にはさせたくなかった。 「中西さん、こいつらまだガキですね」 「小野田お前だってガキじゃねえか」  中西は小野田の胸をどついた。十年前はこの若者と同じ立ち位置にいた。何も分からずホシを挙げることしか頭になかった。 「中西さん、今晩楽しみです、焼き肉」 「そんな約束したっけ?」 「さっき言ったばかりじゃないですか、チンピラ挙げるから付いてこい、報酬は関内苑の焼肉だって」 「あっいけね」  中西は何かを想い出したように走り出した。ダッシュで関内駅を目指す。小野田が追い掛ける。いつも中西にこの作戦で逃げられる。小野田は速い、中西をさっと抜き去り、その周りを一周して横に付けた。 「今晩、焼き肉お願いしますよ」  懸命に走る中西の顔に笑顔を寄せて言った。限界である。立ち止まり呼吸を調整する中西の背をさすりながら「焼肉、関内苑」とその場走りをしながら言った。中西は諦めて頷いた。二人は歩いて署に戻る。 「今は上大岡までだがまだずっと伸びるらしいぞ」
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