都橋探偵事情『座視』

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「もう一つ、もし協力するとしてその条件は交渉出来ますか?」 「ノープロブレム。何の障害もありません。所長の条件を最優先しますよ」 「確約いただけますか?」 「所長、隠しても駄目、録音が証拠ですよ。テープが回る三回に一回、カサッとテープの擦れる音が切なく聞こえますよ」  ばれていた。ラークの録音機は本物より一回り大きいのでテーブルに出したらプロの目は欺けないと出さずにいたがテープの回る音が聞こえていた。テープの音は以前から気になっていた。金さんに頼んで早いとこ改良してもらおう。徳田は録音機を取り出してテーブルに置いた。横にするとカサッがより大きく聞こえる。 「屑屋に知り合いがいて、友達でね、器用だから色々お願いしている」 「一回り大きいですね、素人にはキングサイズと言っとけば分かりませんよ」  二人は笑った。そして林は案件の内容を話し始めた。 「鶴見の建築現場で六五歳の男が墜落しました。手に職のある専門職人ではなく一般の作業員です。墜落災害となり勿論労災保険が適用され、条件通りの保険金が支払われました。そしてその男には生命保険が掛けられていました。掛け金が高額で病死事故死関係なく支払われる内容です。保険会社はすぐに手続きを取り支払われました。これだけならあなたに協力をお願いすることもなく終わっていたんでしょうが滋賀県の大津ホテル建設現場でも墜落災害がありました。勿論こちらも労災保険が適用されました。お国は縦割りで横浜と滋賀での墜落死の関連を疑う情報など浮上しません。しかし生命保険会社は受取人に注目しました」 「同一人物?」 「グレート。さすがですね。誰だと思いますか?」  林はマルボロを咥えて靴底でマッチを擦った。気障もやり通していると堂に入る。徳田は両手の掌を上に向けて広げ、それを少し上へ上げるのと同時に首を凹ました。映画で観るシーンを真似て見たが林が笑わないのを見ると失敗に終わったようだ。気障を真似るには練習が必要だ。 「それが徳田所長にお願いする一番の狙いです。寿町に事務所を構えている吉崎工業です」
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