プロローグ:化学研究部への入部

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プロローグ:化学研究部への入部

「……ここだ」  放課後の静まり返った多目的棟の廊下。  辺りに人の気配はなく、廊下は不気味なまでの静寂に満ちていた。  日の光は校舎の周りに生い茂る雑木林に遮断され、廊下を照らしていた天井の蛍光灯の光が、かえってその不気味さを助長させていた。 「……本当にここで良いんだよね? 化学研究部って」  教室の目の前まで来たが、果たして本当に教室の中で活動が行われているのかが疑わしいほどに、中からは物音1つして来なかった。  高校に入学してから1週間ほどが経ち、私たち新入生は入部を希望する部活動の体験入部期間に入った。今日から2週間ほどの期間を経て、正式に入部届を提出することになっている。  中学の頃から身の回りの化学反応や実験に興味があった私は、もらっていた部活リストの隅の方に申し訳なさ程度に載っていた『化学研究部』という名前の部活に興味を持っていた。きっと、ガスバーナーやリービッヒ冷却器などを使用して様々な実験や現象を行おうとしているのだろう。色々な実験をこの手で自由に行えると思うと、自然と心躍る気持ちにさせられる。  中学からの友達や、高校に入ってから知り合った友達は、中学から継続している運動部に入ったり、高校から新しく追加された軽音楽部や弓道などの部活を見学しに行っている人が多く、化学研究部の活動が行われている化学室に足を運ぼうとしている新入生は私だけだった。 「うぅ……なんだか緊張するなぁ。怖い先輩たちばっかりだったらどうしよう……」  入学式当日の昇降口に自分の所属することになるクラスが発表され、実際にその教室に足を踏み入れるのと同じ……いや、それ以上の緊張感が私の体を包み込み、あと一歩のところにあるスライド式の扉に、手が伸ばせないでいた。  もしかすると、中では怖い不良の先輩がたむろしていて、何も知らずに入った私はボコボコにして抜け殻にされるとか?  それとも、いかにも日の当たらない水辺に生息している微生物みたいで、理系の塊のような男子の先輩たちの実験道具にされちゃうとか? 「……いや、ここでくよくよしていても仕方がない! もしも合わなかったら違う部活を見に行けばいいんだから! 今日はあくまでも、体験入部という名の仮入部! きっと大丈夫!」  見えない不安を払しょくするために、私は両手で頬っぺたをパチンと叩き、気合を入れる。  そして、化学室という札が掛けられている教室の扉をゆっくりと開けた。
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