2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
どうしてもぼくの視線は、彼女のほうへ吸い寄せられてしまう。
「えー、この『受く』というのは下二段活用で」
古典の真島先生が、しゃがれた声で説明しながら黒板に、け、け、く、くる、と書いていく。
ぼくの席は、まん中の列の、うしろから二番目。
彼女の席は、左隣の列の、ぼくから三つ前。
黒板を見ていたはずのぼくの目は、気がつくと、彼女のうしろ姿を向いているのだった。
肩まである黒いつやつやした髪をゆらして、彼女は熱心にノートを取っている。
彼女の名前は、軽見(かるみ)ひうら。
梅雨時に他県から転校してきて、ぼくら二年B組の一員となった。ちょっとばかりツンとした感じの美少女だ。ときおり浮かべる謎めいた微笑みに、クラクラまいってしまう男子は多い。
ぼくにとっても気になる女の子だ。
と――
そんなふうに軽見さんのことを見ているときに限って、自分に注がれる視線に気がつく。
右端の列にいる小幡真美が、ぼくのほうに目を向けているのだった。ちらちらとぼくを見て、次にぼくの視線の先にいる軽見さんのほうを見る。
その視線にはとがめるような色合いがあって、ぼくは少しばかり居心地の悪い思いをする。
だからあわてて黒板に注目し、再びノートを取り始めるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!