たった一人の蝉時雨

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 幼い頃の記憶はほとんどない。ただ、暗い部屋の中にずっといたのは覚えている。私は泣き虫だった。それで、いつも先生を困らせていた。  ある日、先生は私に友達を紹介してくれた。それが初めて先生以外の人に出会った瞬間。でも、会うだけだった。お互い体が弱くて。遊ばせてもらえなかった。  その後から私は良く先生にその子のことを聞いたりまた合わせてとねだっていた。でも、ダメだと言われ続けた。だから、覚えている。「大人になったらまた合わせてあげるよ」その言葉もよく聞かされたから覚えている。  でも、あの子はどんな子だっただろうか? 話の内容は覚えてないけど、一言。印象に残っている、夢のような。曖昧な記憶だけど。たまにハッと思い出す。 『早く、君の音を聞いてみたいな』  それを聞いた瞬間。先生は彼女を連れて行ったんだ。
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