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こんなにも君を恋うのだから、果たして僕は死ぬべきかもしれない。
そう感じたのは何度目のことであろうか。またしても今朝は彼女の幻影に起こされた。
「ねえ、バンドン、私はどこへだって行ける気がするの」
そう言った翌日、チェリスはこの世を去った。
こんな姿で、いったいどこに行けるっていうんだよ。そう言い返してやりたかった。しかし、彼女のまっすぐすぎる瞳を見ると、喉元まで出かかったそんな言葉は瞬く間に霧散してしまった。
僕が見た彼女の最後の姿は、明らかに衰弱していて、体はやせ細り、およそ生気というものがなかった。ただ一つ彼女のその瞳を除いては。
「うん、そうだね」
僕が言えた最大限の言葉、彼女に届いたかどうかなんて今となってはわからない。ただ彼女は大きくうなずいていた。
僕と彼女の関係は、簡単に言えば幼馴染で、簡単に言わなければ言い表せない何かであった。僕にとって彼女は太陽であった。彼女さえいれば他の星々なんて一切目に入らなかった。僕の中心には彼女がいた。ときに彼女は僕を振り回し、そしてときには僕を引っ張っていく。そしてなんだかんだ言いつつも僕は懲りずに彼女についていく。そうだ、彼女を太陽と形容するなら、僕はおおよそ地球であろう。太陽の惑星、そしてなによりも太陽により生命を宿す星。太陽たる彼女が死んだ今、僕は死んだも同然だった。
太陽はいつまでも動かぬままであった。動いているのはいつだって地球だった。
彼女はどこへ行ったのか。少なくとも肉体はどこへも行かなかった。すでに火葬もすみ、彼女の骨は墓地に眠る。
では魂はどこへ行ったのだろうか。僕のもとにいればいいなとふと思った。でもきっと、彼女は太陽なのだから、どこまででも飛んでいけるエネルギーを持った彼女がこんなところにはとどまらないという気もした。
太陽の消滅により、僕の中心は消え去った。僕はそれでも彼女を中心に回っていたのかもしれない。無自覚であるならそれはまさに信仰であった。彼女の消滅によりできた暗闇が何よりも僕の心を蝕んだ。そして僕は、その暗闇にさえも魅了された。
僕は彼女とともにありたかった。つまり彼女の消滅した今、僕も共に、消滅してしまいたかった。でも一つ、たしかに彼女は魂が僕と共にあると言ってはいたのだった。
「ねえ、バンドン、私はどこへだって行ける気がするの。バンドンが生きてさえいればね」
そのあと僕は、彼女に新緑の青葉を見せることを約束した。波打つ音を聞かせると約束した。彼女をどこまででも連れていくと約束した。
畢竟僕は死にきれない。そしてまた、僕は悪夢にうなされるのであろう。
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