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夫がああなってしまったのは、
たぶん、わたしのせいなのでしょう。
あの出来事が起きた日も、
わたしたちは二人きりの居間で、
いつもの通り「不妊治療」をめぐって行くあてのない口論。
結婚八年目の夕暮れに、
夫が「バシン!」とテーブルを叩いた音がすべての引き金でした。
「やめて……!」
わたしが耳をふさいで、
悲鳴をあげたその直後。
——とつぜん、
目の覚めるような眩しい光が部屋中に溢れかえり。
驚くわたしの目の前で、
夫、安田忠彰の姿は
見る見るうちに小さく小さく、
小さく縮み出しました。
ぶかぶかになってはだける衣服。
眼鏡が床に落ちる音。
呆気にとられるほかありません。
まばたきを二度三度してみれば、
夫の掛けていた椅子の上には生まれたばかりの赤ん坊。
まだ瞼も開かない0歳児が「ほぎゃほぎゃ」とむずがっていました。
魔法か奇跡か悪夢のように。
夫の時間は巻き戻り、
わたしの苦難が始まりました。
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