ゆりかごを透明な手がゆらす

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ひとりの成人男性が、 ある日を境にぷつりと消える。 それはたしかに大ごとですが、 「原因不明の失踪(しっそう)」という、 便利な(くく)りで捉えるならば、 社会的にはそうめずらしくもない現象のようでした。 この日本では毎年10万人近い人がどこかに消えて、 うちの8万人については、家族から捜査願が出され、 9割近くは発見されて、元の家に帰るのだそうです。 ……けれど統計上の数字は、なんのなぐさめにもなりません。 現実的な問題として、 一家の稼ぎ手がいなくなれば、 生活費のあてもなくなります。 そして「離婚」でも「死別」でもない形で夫をなくしたために、 わたしの立場は「寡婦」とは呼べず、 様々な補助制度の網からも外れることになるようです。 血の繋がらない乳児を連れた、 手に職のないシングルマザー。 差し当たってまずすべきことは、 貯金を食い潰さない程度に稼げる仕事を見つけることと、 初めての育児の準備でした。
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