ゆりかごを透明な手がゆらす

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「……安田さん、棚卸(たなおろ)しあるの。今日ぐらい、ちょっと残れない?」 「すみません……急ぎなんです……」 ぺこぺこ頭を下げてから、 ロッカーの中の荷物をガサガサまとめるわたしの後ろ姿は、 さぞ薄情に見えたでしょう。 30近くも歳の離れたパートリーダーの小林さんは、 いつものようにため息をつき、 「そう……だったら構わないけど……」 あからさまに不機嫌になります。 このスーパーに長年勤める小林さんは「準社員」。 日に焼けた肌をしたおばさんで、もしも子どもがいればわたしと同年代かもしれません。 わたしは誤解されるのを怖れ、 今の自分の状況について詳しく打ち明けてはいませんが、 (話したところで理解されない……) 職場は境遇の違う相手に親身になってあげられるほど、 時間的にも精神的にも余裕のある場所ではありません。 わざわざ棚卸(たなおろ)しに付き合って、サービス残業などしなくとも、 パートタイマーとしての職務は最低限、果たしていますから、 (なにも気に病むことはないのに……) でもやはり良心は痛みます。
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