ゆりかごを透明な手がゆらす

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わたしだって、できることなら、 お手伝いくらいして帰ります。 を迎えに行く余裕さえ、 充分、確保されるのであれば、 わざわざ人間関係を悪くするようなつもりもありません。 市の経営する託児所が、0歳児の預かりの時間を、 どんなに遅くとも「夜5時まで」と決めてしまっている以上。 急がなければいけないのです。 遅れるとイヤな顔をされます。 印象を悪くし続けて、「受け入れ拒否」などされてしまえば、 それこそ生活の破綻です。 (だから一分でも早く、みじめな『ここ』から脱出したい……) 逃げるように更衣室を抜けて、 後ろ手にドアを締めた時。 閉ざされたドアの向こうから、 ほんの少しだけ耳に入った会話は(あざけ)りのようでした。 (わたしの悪口(わるくち)を言っている……) そう考えてしまうのも、被害妄想ではないでしょう。 (もしも立場が『逆』だったなら、きっと自分もそう言っていた……) 後ろめたさに脚がすくんで、 駐車場に辿り着くまでがほんとうに遠く感じました。
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