ゆりかごを透明な手がゆらす

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赤ん坊の夜泣きのひどさには、 ほとほと困り果てました。 夜中にとつぜん目を覚まし、マンション中に聞こえるくらいの金切り声をあげるのです。 そのたび、わたしは叩き起こされ、 部屋の電気をつけ回ります。 暑いのか、寒いのか。 お腹が空いてしまったのか、 おむつを換えてほしいのか。 何が原因なのかわからず、 ばたばたするうち、目がさえます。 (明日も仕事があるというのに……) 気力、体力を消耗します。 実際、ここまで苦しめられて、理不尽な目に遭わされていると、 (この子をこのまま育てるべきか……) 悩まなかった日はありません。 世間には、育てられない子どもを預ける 「赤ちゃんポスト」というものがあり、 それはわたしの暮らす町にも、 当然のようにありました。 わたしはまだ二十代後半。 再婚だって、出産だって、 (この子さえ……いなければ……) まだまだ可能な年齢です。 自分の人生を犠牲にして、 どうして血の通わないを、 この先、二十年近く見守り続ける必要があるのでしょう。 どうしてこの子は悪びれもなく、 わたしの未来を奪うのでしょう。 (要らない要らない、あんたなんて……!) 生まれてこなければよかったのに……!!!
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