贈る言葉~贋紳士に幸あれ~

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 こんなにも醜い自分に手をさしのべてくれる年下のイケメン男子が存在するなんて、早苗にとっては感動以外の何ものでもなかった。彼こそはきっと、本物の紳士なのだと、早苗は思った。「大郷学院」が中学なのか高校なのかはわからなかったが、その学校の生徒の中に、少なくとも1名の紳士が存在することだけはわかった。  早苗はホームで彼と別れたあと、本気で痩せようと思った。けれどもそれは、彼と友達になりたいとか、交際したいとか、そんな恐れ多い動機からくるものではなかった。お礼がしたいという理由で、大郷学院に連絡をして、彼の身元を特定することも不可能ではないかもしれないが、早苗はそんなことをするつもりは毛頭なかった。  痩せようと決意した理由は、容姿や周囲の人間に見せる“紳士的”な部分だけをもって、ユズリハラに対し「好きだ」という感情を抱いてしまった自分が恥ずかしかったというのもあるが、どうせイケメンになんて相手にされないのだと卑屈になって、それを理由に努力を怠っていた自分に嫌気がさしたからだ。  早苗はふたたび食事制限を始めるのと並行して、通学するときは2駅先の駅まで歩き、帰宅するときも2駅手前で降りて、ウォーキングをするようになった。そのため、朝、家を出る時間が40分ほど早くなった。おのずと夜更かししなくなったことも影響してか、だらだらとお菓子を食べながら、動画を見るという悪習慣とも無縁になった。
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