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3回目の挑戦で道が開けた早苗。ロードバイクとは若干構造が異なるが、素人目には同じ見えるブレーキのない自転車にまたがって、すり鉢状にカーブする走路を颯爽と駆け抜ける早苗。
早苗が養成所を卒業したのが24歳のときだった。そして、競輪選手としてデビューしてから3年が経ち、自転車で競走することを生業とする女性レーサーになっていた。
ファン歓迎イベントの舞台に立つ早苗の前に、封筒を手にした無精ひげの男があらわれた。
「嶋根選手、いつも応援しています! これからも頑張ってください!!」
握手を求めて差し出してきた男の右手を振り払うという、選手としてあるまじき行為は当然にできなかった。
「ありがとうございます」
左手の薬指にはめられた銀色の輪っかの感触を親指で確かめながら、右手で握手に応じ、封筒を受け取った早苗は、心の中でこう付け加えていた――
「投資してくれるのはありがたいが、平日の真っ昼間から体臭漂わせて、車券買ってて大丈夫? お前こそ頑張れよ~ユズリハラァ!」〈了〉
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