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ミラクルワン
ギャオ~ン!
夕日で染まる兵庫県尼崎の町で喧ましい怪獣の雄叫びが響き渡る。
黒く猛々しい出で立ち、その額には甲虫のような角が生えている。その角を振り回し、阪神電車近くにそびえ立つタワーマンションをまるで達磨落としでもするように横から叩く。マンションはくの字に折れて崩れていく。
「キャー!」
「逃げろ!逃げるんだ!!」
群衆が半分パニック状態で逃げ回る。しかし、どこに逃げれば安全なのかは誰もわからない。
自衛隊の戦闘機が飛んでくる。ちなみに尼崎市の北側には伊丹市という町があって、そこには自衛隊の伊丹駐屯地がある。この駐屯地には航空自衛隊は配備されていないので、和歌山の串本分屯基地から飛来してきたと考えるのが普通であろう。
「おい!誰か、豪を見なかったか!」ジャージ姿の教師が慌てた口調で叫ぶ。
「いいえ!アイツいつも怪獣が現れるといつも姿が見えなくなるんです!一体何処にいったのか?」嵐山という名の生徒が答える。
「こんな時に!誰か豪を見つけたら教えてくれ!」そう言い残すと教師は体育館を飛び出していった。
嵐山少年はニヤニヤしながら、同級生の肘をつついた。
自衛隊の戦闘機がミサイルを数発発射し怪獣に命中する。しかし、それは全く効果が無い様子であった。90式空対空誘導弾、開発名称はAAM-3、その単価は1,600万円ほどするらしい。
「畜生!彼はまだ現れないのか!」戦闘機のパイロットは苦虫を潰したような表情で呟く。
ジョア!!!
「あっ!ミラクルワンだ!!」
「ミラクルワンが助けに来てくれた!!」歓声に湧く群衆の群れ。
怪獣の目の前に、身長40メートルは有るであろう巨人が突然姿を表した。その巨人のことを群衆はミラクルワンと呼んだ。
「デア!」彼は気合いを込めてから少し腰を引き両手を前に出した格好で構えた。
ギャオ~ン!!
怪獣は再び雄叫びを上げると、頭を垂れて自慢の角を正面に突きだしながら、彼に向かって突進していく。まるで闘牛の牛のようであった。
ミラクルワンは闘牛士のように華麗にかわす。標的を失った怪獣は足を滑らして地面に倒れる。その様子をミラクルワンは腕組をして見つめている。
怪獣はもう一度立ち上がると、再びミラクルワン目掛けて突き進む。ミラクルワンは怪獣のその角を両手で受け止める。力を籠めるように腰を下ろし踏ん張るが、怪獣の力のほうに分がある様子だ。
ミラクルワンの顔が黄色く染まっていく。
ミラクルワンを支える紫外線エネルギーは、地球上では急激に消耗する。紫外線エネルギーが残り少なくなると、顔色が黄色く変化を始める。そしてもし、その顔が真っ黄色になってしまったら、ミラクルワンは二度と再び立ち上がる力を失ってしまうのだ。
ミラクルワン頑張れ!残された時間は僅かしか無いのだ!
ドリャー!!!
ミラクルワンは渾身の力を込めて怪獣の体を弾き返した。飛ばされた怪獣は阪神電車の高架をプロレスのロープのように背負った。
ミラクルワンは、怪獣の動きが止まった、その瞬間両腕を十字に組み光線を発射した。
その腕から眩い光が生まれた。
ギャオ~~~ン!!!!!
怪獣は苦しそうに叫ぶと激しく弾けて四散した。
空は美しい茜色に染まっている。自衛隊の戦闘機がミラクルワンを称賛するように旋回をつづける。
ミラクルワンは、少しの余韻を残してから、気合いを上げると空高く舞い上がり姿を消した。
「ありがとうミラクルワン!!」
「最高だ~!!」
ミラクルワンが飛び立った後に向かって群衆達は大きく手を振った。
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