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豪 秀幸
「あぶなかった……」秀幸は額の汗を拭う。
「おーい!豪!こんなところに居たのか。急に居なくなったから皆心配したんだぞ」友人の嵐山が秀幸の背中を叩く。
「あ、ああ、俺は大丈夫だ!それより学校のみんなは!?」秀幸は辺りを見回す。
「皆、無事だ!学校の体育館に避難したよ、たぶんお前以外はな」嵐山は呆れたような顔をして秀幸の顔を見る。みんなが無事だったことを聞いて秀幸は安堵のため息をついた。まあ、今だかつて怪獣の襲来によって死傷者が出た事は無いのであるが、その事自体が奇跡である。
「怪獣が出現すると、お前はいつも居なくなるんだから、ちゃんと皆と一緒に行動しろよ!」嵐山はもう一度釘をさしてくる。
「ああ、解った。気を付けるよ」秀幸は軽くウインクをした。
地球侵略を狙う宇宙人アブールが、怪獣を使って町を破壊する。それは日常の出来事のようになっている。
ランダムに現れる怪獣。しかし、その出現する場所は、なぜかこの尼崎市という場所に、それも比較的南側のエリアに集中しているような気がする。日本、いや世界を征服するつもりであるのであれば、色々な都市に出現してもいい筈である。
もしかするとこの町に、宇宙人達の狙う何かがあるのかも知れない。それが一体何であるのかを秀幸達が知りうる術は無かった。
豪秀幸は、その両拳を強く握りしめた。
尼崎市とは兵庫県の東の端っこに位置する町である。
昔は阪神工業地帯の主要地域として公害問題に悩まされたエリアだった。子供達が外で遊んでいると酷い時は空が真っ黄色に染まる事もあったそうた。特に南側エリアに工場が乱立し、煙突からモクモクと煙を吐き続ける光景が日常であった。
しかし、近年の技術の進歩、そして環境への配慮、工場群の移転等により住みやすい町へと変貌を遂げている。
今ではお笑い芸人達の出身地、面白い町のイメージが定着しつつある。
但し、悪いイメージが定着している町でもある。昔は治安も悪く悪名高い地域でもあった。
この町で何か事件が起こるとマスコミは挙って報道をする。それは尼崎なら面白い、話題になるからだ。
テレビで尼崎の名前を聞くと「また尼崎か」と言いながら笑うのが一般的な反応である。バッドマンの世界であればゴッサムシティというところだろう。
尼崎に住む人間は尼崎の事を「アマ」と呼ぶ。ちなみに、都市の名称を略すのは、尼崎とロサンゼルスぐらいなのだそうだ。
「おい!豪!お前何処に行っていたんだ!」教師の怒号が飛び交う。
「え、えーと」秀幸は返答に躊躇する。
「職員室まで来い!」教師は秀幸の耳朶をつまむとそのまま引きずるように職員室へ向かって行った。
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