0人が本棚に入れています
本棚に追加
ラブラブ夫婦
「ただいま」騒動が収まったので秀幸は家に帰宅した。
「お帰りなさい。秀幸、あなた大丈夫だった?」母親が少しだけ心配そうに尋ねる。
「ああ、俺は大丈夫だよ。でも、町は結構やられたみたいだ」怪獣に壊された駅前のタワーマンションの倒壊で町は無茶苦茶になってしまったようだ。
「なにかあったら学校の体育館に避難するのよ!あそこなら安全でしょ」彼女が何を根拠にそう言っているのかは不明であるが心配してくれているので、変に反論するのを秀幸は控えた。たしかに、母の言う通り秀幸の通う学校に被害が出た話は聞かない。もっとも、秀幸は怪獣が出た時に体育館に居た事は一度もなかったのではあるが・・・・・・。
「母さ~ん!ただいま!」遅れて父親が元気に帰宅してくる。家に帰宅したことをここまで喜ぶ男は中々いないであろう。
秀幸の父はどこにでもいる普通のサラリーマンである。最近、頭の髪が薄くなってきたことが悩みの種である様子で、毎朝必死に目立たないよう洗面所を占領する。そのせいで年ごろである秀幸が鏡を見て身なりを整える時間は極端に少なくなってしまている。
「あら、あなた~!お帰りなさ~い!」母親の目がハートマークになった。秀幸の両親は結婚して20年近くの月日が経過しているが、その夫婦仲の良さは彼が目を覆いたくなるほどラブラブであった。それこそ、いつ弟妹が生まれてもおかしくない勢いだと秀幸はいつも思っている。
「父さん・・・・・・、お帰りなさい」秀幸は少し遠慮がちに呟いた。なぜかこの場で空気のような存在で扱われているような気がするのは思い込みであろうかと彼は思った。
「おお、秀幸も帰っていたのか!気が付かなかったよ!」ああ、鬱陶しいと秀幸は正直思った。まあ、夫婦喧嘩を見せられるよりはマシなのかなと自分に言い聞かせた。
怪獣は数カ月の期間を挟んで、町を襲ってくる。初めの頃は町の人々は不安で眠れない日々を過ごしていたのだが、何度も襲来を経験すると台風のような災害と同様の感覚になり、下手をすると学校が休みと喜ぶ子供もいるようである。
ゆえに、怪獣が暴れた当日にこのような悠長な生活を送る豪一家も決して特殊ではないのである。
「母さん、お腹が減ったよ」父親が甘えるような声で要望を口にする。その口調を聞いて秀幸はさらにげんなりとする。
「今晩はカレーよ!お父さんの大好きな!」花が開くような笑顔で母は発表した。
「やったー!」父親は飛び上がるように喜び母の体に抱き着いた。その様子を見て秀幸は大きなため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!