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第七章「バベルの塔」
バベルの塔は、砂漠の真ん中にそびえ立っていた。
「ここにアベルが…。」
「多分な。そして、アイオーンも相当な数が存在しているはずだ。警戒を怠るなよ。」
「取り囲まれたらアウトね。気を引き締めて行きましょう。」
僕達はバベルの塔に入っていった。
バベルの塔内部は、古代遺跡そのものだった。
きっと、かつては優れた技術によって動かされていたのだろう。
今はただの廃墟だ。
やがて、かつての居住スペースであっただろう広場に出た。
「なんだか、切ない場所ね。ここにも暮らしがあったのよね。」
「マイナーをやってると、発掘によって当時の生活や暮らしが手に取るようにわかる時があるんだ。どうして滅んでしまったのかはわからないけど、寂しい気持ちになるよね。」
「ふーん。そういうものなのね、マイナーって。」
「僕達の暮らしは、かつて滅んでしまった技術をそのまま使って補われてるからね。僕達の力だけでは暮らしていけない。エネルギーを作るジェネレーターだって、今の僕たちには作ることすらできないんだ。」
「我々が使っている船も、元は発掘された古代のものを修復している。当然、我々には理解できないブラックボックスも多い。何故文明が滅んでしまったのか、それはきっと、神にしか知り得ぬところなのだろうな。」
「神、か…。」
すると、どこからか声が響き渡った。
「神に会いてぇか?そいつぁ無理な話だ。」
「この声は…アベル!!」
見渡しても、どこにもアベルの姿はない。
「どこだ!どこにいる!」
「他人の家にズカズカと入り込んできてよく言うぜ。神には会わせねぇ。人類を救うなんて事はさせねぇ!!」
すると、頭上から何機ものアイオーンが降りてきた。
「くそっ、またアイオーンか!」
「この数、耐えられそうにないわね…。」
しかし、アイオーンは襲いかかってこなかった。
「このアイオーンは俺の指示で全て動く。お前らが大人しくしていれば殺しゃしねぇよ。」
「どういう事だ、アベル!」
「少し昔話をしてやろうと思ってなぁ。」
─今から数百年前、人類は滅亡の危機に瀕していた。
それは互いの争いによって住む場所も、人口も減ってしまったからだ。
残った人類はひとつの決断をした。
自らが生まれ育ち、壊してしまった星を捨て、新たな星へと移り住むというものだ。
しかし、それだけの数の人類を乗せ、別の惑星へ運ぶ手段は当時の技術をもってしても不可能だった。
そこで人類は、意識の集合体として宇宙を漂う事にした。
生き残った人類の意識をひとつの塊として、次なる星へと移行し、そこで新たな生命を生み出し家畜として育て上げる。
そうして成長しきった家畜を喰らい、また放浪の旅に出る…。
しかし、意識の集合体とて永遠の存在ではない。
時と共に疲弊していく集合体を修復するには、人類とよく似た生命による意識の成長が欠かせなかった。
そんな時に辿り着いたのがこの星だった。
ヒトという生命体を見つけた集合体は、自らの意識を散りばめ埋め込み、繁殖させていった。
いずれ、自分たちが乗っ取れるようにだ。
「お前らが神と呼んでいる存在こそ、意識の集合体って訳だ。俺たちヒトと人類はそもそも別の生命体なのさ。」
「…じゃあ、人類の救世主って言うのは…。」
「そう、ヒトを滅ぼし、自らの糧にしようとしている悪魔の手助けをしてたんだよ、お前らは!」
「なっ…!」
「俺は別の集合体から意識を与えられた存在だ。お前らの『神』とは違う考えの元行動している。ヒトがヒトとして、ひとつの生命体として生きていけるように、神を滅ぼせとなぁ。」
「それじゃあ、僕達の力は…。」
「かつて強大な力を持っていたヒトが、再び争いを起こさないよう力を分断して地中深くに沈めたものだ。その力を全て揃えた時、俺はお前達の神を殺し、そしてヒトを鎖から解放することができる。」
「…!」
「どうだ、ここまで話を聞いてもまだ神に会いてぇか?この俺をぶった切りてぇか?」
正直、僕はわからなかった。
人類はヒトを糧にするつもりだった?
神の正体は意識の集合体?
この力は神を殺すための力?
「まだ俺をぶった斬るつもりなら容赦はしねぇ。だが、もし今の話を聞いて考えを変えるのなら俺の部屋へ案内してやる。」
「フィリップ!罠かもしれないわ…!」
「わかってる。でも、今の話が本当だとしたら、僕達の敵はアベルじゃなくなる。」
「行ってみる価値はある、か…。」
僕は決心した。
「…わかった。アベルの部屋へ案内してほしい。」
僕達はアイオーンに連れられて、最上階にあるアベルの部屋へと辿り着いた。
「まぁ入れや。取って食いやしねぇよ。なんせ、この間の戦いで俺の剣は折れちまって修復中だ。」
アベルの部屋は、部屋と言うより船のようだった。
中央には折れた剣が、そして、その奥にアベルが座っていた。
「まさかお前が第二の剣を持っていたとはな。」
僕は思い出したように質問した。
「第二の剣って、一体なんなんだ?」
「これも昔話になっちまうが、かつて剣の力と互角にやり合うために神が作り出した力、それが第二の剣だ。普通は棺桶と同調した者に力が与えられるが、第二の剣は違う。元々力を持っている者が目覚めさせることで使えるようになるのさ。」
「つまり、フィリップが第二の剣を使えた理由は…。」
「そう、お前が元々神に選ばれたヒトだったって訳だ。」
「神に選ばれた…ヒト…。」
「俺のような異端分子を消し去るための力と言っても過言じゃねぇ。人類の邪魔になる存在を、本来の剣の力を潰すために作られた力さ。」
「じゃあ僕は今までヒトの為じゃなく、人類の為に戦ってきたって事なのか…?」
「そういう事になるな。何度か声を聞いたろ?あれは神、意識の集合体の意思だ。」
「僕は…僕達はどうすればいいんだ…。」
アベルが立ち上がって問いかけた。
「お前は、この世界が好きか?」
「そんなの…当たり前だ。辛いことも沢山ある。でも、一生懸命生きてきたこの世界が、僕は好きだ。」
「…なら、迷うことはねぇ。神を滅ぼし、ヒトとしての世界を守るのが力を与えられた者の役目なんじゃねぇか?」
「役目…そうかもしれない。アベルの言う通りだ。」
「なら、俺と共に神を滅ぼそう。そして、ヒトの運命を断ち切るんだ。」
「まだ僕はあなたを許してはいない。けれど、間違っていたのが僕達ならそれは認めなくちゃいけない。」
「このバベルの塔は意識の集合体、神とこの世界を繋ぐアンテナのような役割をしている。この上で、神様が待ってるぜ。」
「よし、皆、アベル、行こう!」
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