第二章「出逢い」

1/1
前へ
/9ページ
次へ

第二章「出逢い」

「さてと、王都に行くには樹海を抜けていかないとダメだね。」 「あそこに入るのは10数年ぶりだぜ…当時うっかり入って迷子になったんだよな…うぅ、寒気がしてきたぜ…」 「ヴェイン、なんなら街で留守番でもいいんだよ?」 「ば、ばか言うなよ!もちろん行くに決まってんだろ!さぁ出発出発!!」 「無理しないって言ったのになぁ。」 僕達は街を出て樹海へと足を踏み入れた。 機械文明とはかけ離れた、自然が支配する世界。 一歩間違えれば巨大生物の餌になってしまう、この樹海はそんな場所だ。 僕もこれまで入ったことは無い。 湿った足元に気をつけながらゆっくりと進んでいく。 「ヴェイン、ツタとかに気をつけないと転ぶからね。」 「うわっ!いてぇ!!」 言ったそばからヴェインは転んだ。 「だから言ったのに…あれ、これって…」 「いてて…ん?こりゃ足跡だな。誰かいるのか?」 「もしかしたら、さっき僕を襲ってきたやつかもしれない。気をつけていこう。」 「そうだな。用心用心!」 僕達は引き続き足を進めた。 「はぁ…まだなのか?フィリップ。」 「うーん、この地図が正しければようやく半分ってところかな。」 「半分!?オレもう疲れちまったよ…一休みしようぜ?」 「そうだね、もう日も傾いてきたし今日はここで休もうか。」 「天の恵みも一日くらいなら浴びなくて平気だしな!」 乾いた木を探すのに苦労したが、なんとか焚き火をすることができた。 「よしっ!これで今晩は安心だな!」 「だね。ゆっくり休んで明日に備えよう。」 ヴェインはぐっすりと寝てしまったが、僕は考え事が尽きない。 それにしても、あの力は一体何なのだろう。 神への道標…襲ってきたやつ…突然現れた盾…謎だらけだ。 突然、背後でカチリと音がした。 「両手を挙げて。大人しくしなさい。」 思わず振り返ってしまった。 「君は…?」 女の子だ。僕達と変わらないくらいの歳に見える。 「動かないで!両手を挙げなさい!」 よく見ると小さな銃を構えていた。 「…わかったよ。これでいい?」 両手を挙げた僕を見て、女の子は少し安堵したようだった。 「最初から大人しくしていればいいのよ。そのまま動かず質問に答えて。」 「なんだい?僕らは王都に行きたいだけなんだ。とりあえず銃を下ろしてくれないかな?」 僕らに敵意がないのが伝わったのか、女の子は銃を下ろした。 「王都に行くと言ったわね?…出口を知ってるって事?」 「うん。知ってるけど…もしかして迷ったの?」 図星だったのか、女の子は焦って再び銃を向けてきた。 「そんな物騒なもの使わなくても教えてあげるよ。君、名前は?」 「あなたに名乗る必要なんてないわ。」 「ここから樹海を抜けるには半日くらいかけて歩かなきゃならない。そんな軽装備じゃ余計危険だよ。王都に行くのなら、出口まで一緒に行くのはどうかな?」 「…お人好しね。いいわ、私はティアラ。」 「ティアラか。僕はフィリップ。ちなみにそこで寝てるのは僕の幼馴染のヴェイン。」 「フィリップとヴェインね。一応覚えておくわ。」 女の子は肩の力を抜いて、焚き火の近くに座り込んだ。 「それにしても、なんで樹海に一人で?はぐれたの?」 「…。」 ティアラは急に黙って俯いてしまった。 「話したくないなら無理しなくていいよ。僕達も説明しようがない理由で王都に向かってるしね。」 「ふーん…とりあえず、休みましょう?天の恵みを浴びてないの。疲れたわ。」 ティアラも僕達と同じ状況らしかった。 「そうだね。とにかく休んで、明日の朝出発しよう。」 僕達は今度こそ眠りについた。 翌朝、一番最後に起きてきたヴェインに状況を説明した。 「オレはヴェインだ!よろしくな!」 「昨日聞いたわ。何度も言わなくて結構。」 「なんだよー、つれねーな。」 うんざりしているティアラも参加して、僕達は樹海の出口を目指して歩き始めた。 「…ふーん、謎の男に襲われて、ねぇ…。」 道中、今に至る経緯を話していた。 「突然襲ってくる謎の男…王都でも最近噂になってるの。」 「そうなのか。僕達を襲ってきたやつと同じ人物なのかな。」 「さぁ、私は見てないからなんとも言えないけど、危険人物に変わりはないわ。」 「用心しねーとな!」 「誰が危険人物だって?聞き捨てならねぇなぁ?」 どこからか、あの声が聞こえた。 そして正面の影から、またしてもあいつが現れた。 「まさか『王女様』と一緒になってるとはなぁ、手間が省けるってもんだぜ。」 僕は無意識のうちに、あの盾を出現させていた。 「皆、僕の後ろに隠れて!これならあいつから守れる!」 男は鼻で笑うと、何かを指示するように片手を挙げた。 「今日の相手は俺じゃねぇよ…お前らまとめてこいつの餌になってもらうぜぇ!」 すると男の頭上から巨大な人型の機械が降りてきた。 「なんだ…こりゃ…!」 「ヴェイン!危ない!早く盾の後ろに!」 人型は間髪入れずに僕達に向けて光線を放ってきた。 「うわっ!!」 轟音と振動が響き渡り、辺りが炎に包まれた。 「あとは頼むぜぇ、アイオーン!」 「待てっ!お前には聞きたいことが…!」 男は人型を置いて、そのまま立ち去ってしまった。 次々と光線を放ってくる人型に、僕達は動けないでいた。 「くそっ、どうしたら…」 「私がやるわ。次の光線をかわしたらそのまま突き進んで。」 「そんな事したらティアラが危ないじゃないか!」 僕の言葉とは裏腹に、ティアラは薄らと笑っていた。 「いいから任せなさい。私の力、見せてあげる…!」 そう言うと、人型の隙を突いてティアラが駆け出した。 「くそっ…!行くしかないな!」 「ヴェイン!走ろう!」 僕とヴェインが走り出したと同時に、ティアラの銃が光り輝いた。 「王家の力の前に沈みなさい!」 小さな銃からは考えられない力の光線が放たれ、人型の頭部を破壊した。 人型はその動きを止めた。 「これで時間が稼げるわ!今のうちに早く!」 ティアラを盾の内側に囲ってから、僕達は走り続けた。 「はぁっ…はぁっ…ここまで来れば大丈夫かな…」 「追ってこねーみたいだな…」 「ティアラ、さっきの力って…それに王女様って…?」 少し考え込んで、ティアラが答えた。 「その話は王都に着いてからでもいい?今は先を急ぎましょう。」 「すげー気になるけど、またやつが来ないとも限らねーしな。」 「そうだね。もうすぐ樹海を抜けて王都が見えてくるはずだ。先を急ごう!」 僕達は樹海を後にした。 樹海を抜けると、平原が広がっていた。 その先に見える大きな街と城。 王都、ヘイムダルだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加