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第二章「出逢い」
「さてと、王都に行くには樹海を抜けていかないとダメだね。」
「あそこに入るのは10数年ぶりだぜ…当時うっかり入って迷子になったんだよな…うぅ、寒気がしてきたぜ…」
「ヴェイン、なんなら街で留守番でもいいんだよ?」
「ば、ばか言うなよ!もちろん行くに決まってんだろ!さぁ出発出発!!」
「無理しないって言ったのになぁ。」
僕達は街を出て樹海へと足を踏み入れた。
機械文明とはかけ離れた、自然が支配する世界。
一歩間違えれば巨大生物の餌になってしまう、この樹海はそんな場所だ。
僕もこれまで入ったことは無い。
湿った足元に気をつけながらゆっくりと進んでいく。
「ヴェイン、ツタとかに気をつけないと転ぶからね。」
「うわっ!いてぇ!!」
言ったそばからヴェインは転んだ。
「だから言ったのに…あれ、これって…」
「いてて…ん?こりゃ足跡だな。誰かいるのか?」
「もしかしたら、さっき僕を襲ってきたやつかもしれない。気をつけていこう。」
「そうだな。用心用心!」
僕達は引き続き足を進めた。
「はぁ…まだなのか?フィリップ。」
「うーん、この地図が正しければようやく半分ってところかな。」
「半分!?オレもう疲れちまったよ…一休みしようぜ?」
「そうだね、もう日も傾いてきたし今日はここで休もうか。」
「天の恵みも一日くらいなら浴びなくて平気だしな!」
乾いた木を探すのに苦労したが、なんとか焚き火をすることができた。
「よしっ!これで今晩は安心だな!」
「だね。ゆっくり休んで明日に備えよう。」
ヴェインはぐっすりと寝てしまったが、僕は考え事が尽きない。
それにしても、あの力は一体何なのだろう。
神への道標…襲ってきたやつ…突然現れた盾…謎だらけだ。
突然、背後でカチリと音がした。
「両手を挙げて。大人しくしなさい。」
思わず振り返ってしまった。
「君は…?」
女の子だ。僕達と変わらないくらいの歳に見える。
「動かないで!両手を挙げなさい!」
よく見ると小さな銃を構えていた。
「…わかったよ。これでいい?」
両手を挙げた僕を見て、女の子は少し安堵したようだった。
「最初から大人しくしていればいいのよ。そのまま動かず質問に答えて。」
「なんだい?僕らは王都に行きたいだけなんだ。とりあえず銃を下ろしてくれないかな?」
僕らに敵意がないのが伝わったのか、女の子は銃を下ろした。
「王都に行くと言ったわね?…出口を知ってるって事?」
「うん。知ってるけど…もしかして迷ったの?」
図星だったのか、女の子は焦って再び銃を向けてきた。
「そんな物騒なもの使わなくても教えてあげるよ。君、名前は?」
「あなたに名乗る必要なんてないわ。」
「ここから樹海を抜けるには半日くらいかけて歩かなきゃならない。そんな軽装備じゃ余計危険だよ。王都に行くのなら、出口まで一緒に行くのはどうかな?」
「…お人好しね。いいわ、私はティアラ。」
「ティアラか。僕はフィリップ。ちなみにそこで寝てるのは僕の幼馴染のヴェイン。」
「フィリップとヴェインね。一応覚えておくわ。」
女の子は肩の力を抜いて、焚き火の近くに座り込んだ。
「それにしても、なんで樹海に一人で?はぐれたの?」
「…。」
ティアラは急に黙って俯いてしまった。
「話したくないなら無理しなくていいよ。僕達も説明しようがない理由で王都に向かってるしね。」
「ふーん…とりあえず、休みましょう?天の恵みを浴びてないの。疲れたわ。」
ティアラも僕達と同じ状況らしかった。
「そうだね。とにかく休んで、明日の朝出発しよう。」
僕達は今度こそ眠りについた。
翌朝、一番最後に起きてきたヴェインに状況を説明した。
「オレはヴェインだ!よろしくな!」
「昨日聞いたわ。何度も言わなくて結構。」
「なんだよー、つれねーな。」
うんざりしているティアラも参加して、僕達は樹海の出口を目指して歩き始めた。
「…ふーん、謎の男に襲われて、ねぇ…。」
道中、今に至る経緯を話していた。
「突然襲ってくる謎の男…王都でも最近噂になってるの。」
「そうなのか。僕達を襲ってきたやつと同じ人物なのかな。」
「さぁ、私は見てないからなんとも言えないけど、危険人物に変わりはないわ。」
「用心しねーとな!」
「誰が危険人物だって?聞き捨てならねぇなぁ?」
どこからか、あの声が聞こえた。
そして正面の影から、またしてもあいつが現れた。
「まさか『王女様』と一緒になってるとはなぁ、手間が省けるってもんだぜ。」
僕は無意識のうちに、あの盾を出現させていた。
「皆、僕の後ろに隠れて!これならあいつから守れる!」
男は鼻で笑うと、何かを指示するように片手を挙げた。
「今日の相手は俺じゃねぇよ…お前らまとめてこいつの餌になってもらうぜぇ!」
すると男の頭上から巨大な人型の機械が降りてきた。
「なんだ…こりゃ…!」
「ヴェイン!危ない!早く盾の後ろに!」
人型は間髪入れずに僕達に向けて光線を放ってきた。
「うわっ!!」
轟音と振動が響き渡り、辺りが炎に包まれた。
「あとは頼むぜぇ、アイオーン!」
「待てっ!お前には聞きたいことが…!」
男は人型を置いて、そのまま立ち去ってしまった。
次々と光線を放ってくる人型に、僕達は動けないでいた。
「くそっ、どうしたら…」
「私がやるわ。次の光線をかわしたらそのまま突き進んで。」
「そんな事したらティアラが危ないじゃないか!」
僕の言葉とは裏腹に、ティアラは薄らと笑っていた。
「いいから任せなさい。私の力、見せてあげる…!」
そう言うと、人型の隙を突いてティアラが駆け出した。
「くそっ…!行くしかないな!」
「ヴェイン!走ろう!」
僕とヴェインが走り出したと同時に、ティアラの銃が光り輝いた。
「王家の力の前に沈みなさい!」
小さな銃からは考えられない力の光線が放たれ、人型の頭部を破壊した。
人型はその動きを止めた。
「これで時間が稼げるわ!今のうちに早く!」
ティアラを盾の内側に囲ってから、僕達は走り続けた。
「はぁっ…はぁっ…ここまで来れば大丈夫かな…」
「追ってこねーみたいだな…」
「ティアラ、さっきの力って…それに王女様って…?」
少し考え込んで、ティアラが答えた。
「その話は王都に着いてからでもいい?今は先を急ぎましょう。」
「すげー気になるけど、またやつが来ないとも限らねーしな。」
「そうだね。もうすぐ樹海を抜けて王都が見えてくるはずだ。先を急ごう!」
僕達は樹海を後にした。
樹海を抜けると、平原が広がっていた。
その先に見える大きな街と城。
王都、ヘイムダルだった。
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