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第三章「棺」
「すげー!王都ってこんなにでけーのか!」
「ほんとだね。城下町も栄えてるし、さすがは王都って感じだ。」
すっかり感心しきっている僕とヴェインをよそに、ティアラはすたすたと歩いて行ってしまう。
「もうそろそろ天の恵みが始まるわ。ここからだと城下町の広場の方が近いからそこに向かいましょう。」
「そうだね。一日浴びてないだけでヘトヘトだよ…。」
ヴェインが思い出したように質問し始めた。
「そういえば、ティアラって一体何者なんだよ。結局まだオレ達知らされてないぜ?」
立ち止まって、ティアラが語りだした。
「私はね、この国の王の娘。つまり王女なのよ。まぁ、薄々わかってたとは思うけどね。」
「えぇっ!!マジかよ!!」
「ヴェイン、鈍すぎるよ…。」
「この国の王家では代々聖なる力が継承されることになっているの。さっき私が使った力はそれ。」
「そうなんだ。普通じゃなかったもんね。」
「…そしてフィリップ、あなたが使っている盾の力、その力も同じものなのよ。」
「ええっ!!マジかよ!!」
それには僕も同感だ。
「それってどういう事?僕は王家の人間でもなんでもない、ただのマイナーだよ?」
少しティアラは考え込んでいた。
「それがわからないのよ。私は王家の継承でしかこの力は使えないと思っていたの。でも違った。そして、あの男の力も…。」
「もしかすると、同じ力かもしれない?」
「そういう事ね。私の力は『狙撃』。そしてフィリップの力は『守護』。多分、あの男はまた別の力を持っているに違いないわ。」
「それぞれに力の種類が違うってことか?」
「詳しくはわからないけれど、力の持ち主ならなんとなくわかるの。でしょ?フィリップ。」
「うん。説明が難しいけど、ティアラやあの男は何か違う感じがするよ。」
「オレには全然わかんねーな。」
「私が知ってるのはそんなところ。さ、そろそろ天の恵みの時間よ。」
僕達は広場へ向かった。
「天の恵みの演説って、どこも一緒でだりーんだなー。」
「少なくともこの国では庶民の信仰心が強いから仕方ないわね。私はどっちかと言うと演説する側だから冷めてるけど…。」
「演説したりもするんだ。ティアラって本当に王女様なんだね。」
「本当はこんな所でプラプラしてちゃいけないんだけどね…私は気まずいけど、お父様に会いに行きましょう。私よりこの力について詳しく知ってるわ。」
城下町を抜けて、僕達は王宮へ向かった。
ティアラが門番と何やら話をしている。
「なぁ、王女様って皆あんなにツンケンしてるもんなのか?」
「僕に聞かないでよ。王女様なんて会ったことないんだから。」
しばらくするとティアラが戻ってきた。
「話は着いたわ。さ、中へ入りましょう。…何か言いたげね?」
「そ、そんなことないよ!」
僕達はティアラの後を追って王宮の中へと進んだ。
奥に進むと、大きな扉が閉じていた。
ティアラは跪いて、さっきとは打って変わって仰々しく喋り始めた。
「ヘイムダル第一皇女ティアラ・ヘイムダル、只今帰還致しました。」
すると重々しい扉がゆっくりと開いた。
「…ふう。さて、行きましょう。一応失礼のないようにね。特にヴェイン。」
「俺かよー。」
更に奥に進むと、そこには王様、ティアラの父上が王座に座っていた。
「ティアラよ、此度の身勝手な行動、相応の理由があろうな?」
「はっ。この者達がその証拠で御座います。」
「お、オレたち!?」
「しっ。静かに。」
ティアラが樹海での出来事を伝えていった。
「ふむ…その者、フィリップが我が王家に伝承されし力の持ち主だと言うのだな。フィリップよ、今ここで、その力を見せては貰えぬか?」
僕は焦った。何故なら、僕の意思であの盾を出現させたことはなかったからだ。
「その様子、まだ力の制御ができていないと見た。自らの意思では出現させられぬか。」
「…まだわかりません。いつも無意識に出現させてしまうんです。」
王は続けて語った。
「この王家の力は、与えられただけでは使い物にならぬ。自ら力をコントロールし、自由自在に使いこなして初めて発揮できるのだ。我が娘ティアラも初めは力に翻弄されていた。フィリップよ、右手を前にかざすのだ。」
「こう…ですか?」
「そうだ。そのまま、その盾のイメージを強く持ってみろ。」
僕は言われた通り、あの盾をイメージした。
すると、目の前に盾が出現した。
「この力は使うもののイメージが制御に強く影響している。イメージを変えることでその姿や特性をも変えることが可能だ。」
僕は堪らず質問した。
「王様、僕はどうしてこの力を与えられたのですか?」
「そなたが触れた物体、あれははるか昔に強大な力が封印された『棺桶』だ。」
「棺桶…。」
「その棺桶を開けることが出来るのは、我々王家だけだと伝えられてきた。しかしそれは真実ではない。」
ティアラも驚いた様子だった。
「棺桶は、ヒトとしての『枷』が外れた新たなヒトにのみ開けることが出来る。」
「枷…一体なんの事ですか?」
「うむ…伝承でしか知らぬ私にも詳しいことはわからぬが、新たなヒトが"人類を救うことができる存在"という事は言えるだろう。」
「人類を救う…」
「フィリップよ、王としての頼みがある。」
「はい。」
「ティアラと共に、人類の救世主となってほしい。」
「僕に…できるでしょうか…。」
「棺桶が開いたという事はそういう事だ。そなたにしかできぬ事なのだ。」
「…わかりました。やってみます。」
「よろしい。実は、この力の持ち主のもう一人の居場所を把握している。まずはそこへ向かってほしい。場所はここから船で海を渡ったブリガンドという所だ。その者の名を、エイルと言う。」
「そのエイルさんに会えばいいんですね。」
「うむ、頼んだぞ、フィリップよ。」
「今夜は王宮で泊まるといい。部屋を用意させよう。」
「なんか話が難しくてわかんねーよ。」
「とりあえずは、そのエイルさんに会ってみないとね。」
「私も成り行きで一緒に行けるみたいね。正直王宮にいると息苦しかったから丁度いいわ。」
「ああ!樹海にいたのは家出だったのか!!」
「ち、違うわよ!た、たまたま迷っちゃっただけで…。」
「まぁいいじゃない。あんな風に力を使いこなせる仲間は多い方がいいよ。それに、あの男がまたいつ現れるかわからないし。」
「そうだな!オレも頑張るぜ!」
「ま、今日のところはもう寝ましょう。船の手配はお父様がしてくれたみたいだし、朝には出発できると思うわ。」
「わかった。各自準備しておかないとね。」
「それじゃ、おやすみ。」
「おう!」
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