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第四章「同調者」
翌朝、僕達は王都の港に集まっていた。
「すげー。さすがは王都だなー!でけぇ船が沢山あるぜ。」
「僕達の街の港じゃ、近場の漁に出かける船しかないもんね。」
「ここには様々な目的の船が集まるのよ。漁に出かける船、客船、そして軍艦もね。」
「そうなんだ。軍艦か…。」
確かに一際大きな、きっと軍艦であろう船がいくつも停泊している。
「やっぱり、他の国と戦争になったりするの?」
「そんなもんじゃないわよ。あくまで自衛、そして他国への軍事アピールってとこね。実際に武力行使した事はないって聞いているわ。」
「そっか、なら少し安心したよ。僕達が採掘したジェネレーターは王都にも輸出してるから、ヒトを殺めるために使われてるんじゃないかって思ったんだ。」
「心配しなくても、今の王都は穏便派の議員が多いから無闇に他国を攻めたりはしないわ。」
「なぁなぁ、あの一番でけー船に乗れたりしねーのか?」
「ヴェインは能天気でいいね…。」
「あれは王都の要人を乗せるための船。あんた達みたいな一般人がおいそれと乗れるような船じゃないわよ。」
「ちぇっ、残念!」
僕達はもう少し小ぶりな、でも頑丈そうな船に乗り込んだ。
「すげーなー!全然揺れないから、これならオレでも船酔いしなくて済みそうだぜ!」
テンションの高いヴェインをよそに、僕とティアラはあの男について話し合っていた。
「ねぇ、襲ってきたあの男なんだけど。」
「樹海で話した通り、僕が棺桶を開けたすぐあとに現れて襲ってきたんだ。」
「その時、男は何か武器とか持ってなかったの?」
「剣…みたいなもので切りつけてきたかな。」
「剣…。」
ティアラは少し考え込んでいた。
「何か心当たりがあるの?」
「ええ。昨日お父様に色々と力について聞いていた中で『剣』の力があるって言ってたの。」
「じゃあ、あの男は…。」
「私の力が『狙撃』、フィリップの力が『守護』、そしてあの男の力は攻撃に特化した『剣』かもしれないわね…。」
「攻撃に特化した力、か…。」
「それに、樹海で私達を襲ってきたあの人型の機械…あんな技術がこの世界にあるだなんて聞いた事ないわ。」
「『アイオーン』って呼んでいたよね。あれは一体…。」
「…もしかしたら、あの男は私達の力以上の何かを手に入れているのかもしれないわね。」
するとティアラは、伝承について語ってくれた。
「はるか昔、人類は争いを繰り返していた。次第に激化するうちに、ある国が武力で争いを収めるために強大な力を持った兵器をいくつも作り出した。『天使』と呼ばれる無数のそれは、ほぼ全ての大地を焦土と化した。その後争いが終結した人類は神の御加護をうけた…これが伝承の概要。」
「その『天使』があのアイオーンだとしたら、あの男はとてつもない力を持っているのかもしれない。」
ティアラは少し考えているようだった。
「でもね、もし伝承のような力を既に持っているなら、あんな中途半端に私達を攻撃したりしないと思うの。それにフィリップが襲われた時はあの男だけだったんでしょう?予測だけど…まだあの男は力の全てを手に入れた訳ではないのかもしれないわ。」
「そう言われればそうだね。でも近い将来、力の全てを手に入れるつもりなのかもしれない。それだけは絶対に止めないと。」
「ええ。その為にも、まずは力の持ち主に会うしかできることは無いわ。」
「ブリガンドのエイルさんだよね。どんな人なのかな。」
その時、大きな揺れと同時に船内に警報が鳴り響いた。
部屋に飛び込んできたのは警備兵だった。
「緊急事態です!国籍不明の武装艦がこちらに攻撃を仕掛けて来ました!」
「なんですって!?まさか、海賊…!こんな時に!」
「おい!今のはなんなんだ!?危うく海に落ちるところだったぜ!」
「ヴェイン、無事だったんだね!」
「この船には最低限の武装しか搭載していないの。それに、国籍不明船は無闇に応戦できない…!」
僕は閃いた。
「もしかしたら、僕の力なら時間を稼げるかもしれない…!試してみるよ!」
僕は船の甲板に飛び出すと、右手を前にかざし、とても大きな盾をイメージして力を込めた。
すると、船全体を覆う盾が出現した。
「これで少しは耐えられそうだ!今のうちに停戦の話し合いを!」
その直後、国籍不明船から拡声器を使った声が聞こえた。
「『守護』の力の覚醒、本当だったようだな。その力、渡してもらおう!!」
国籍不明船の船首に、細身で背の高い男が立っていた。
手にした槍のようなものが強く光ったかと思ったその時、僕の盾が力を失い砕け散った。
「なんだって…!」
男はほくそ笑むと、僕達に砲撃を放ち、船はたちまち沈んでしまった。
次に目を覚ますと、僕は独房らしき部屋に閉じ込められていた。
「ここは…?」
「…気がついたか。」
前を向くと、そこにはさっきの男が立っていた。
「お前は…船を沈めた…!」
「沈めるつもりはなかったのだがな。お前が抵抗したからだ。」
「ここはどこだ!皆は!」
男は表情を変えずに答えた。
「ここは俺の船の中だ。安心しろ。他の連中も、狙撃の娘も収容している。」
「なんでこんな事をしたんだ!」
「言っただろう、お前の守護の力を渡せと。狙撃の娘も乗っていたのは予想外だったがな。お陰で手間が省けた。」
「お前は何者なんだ!!」
「俺の名はエイル。『槍』の力の同調者だ。」
僕は今までの経緯を説明した。
「…なるほど、それで俺に会いにブリガンドへ向かっていたということか。」
「まさかこんな形で会うとは思ってなかったけどね。」
「俺は海賊行為を行ってはいるが、言わば義賊のようなものだ。非礼を申し訳なく思う。」
「…船を沈めておいて、やけにあっさりしてるんだね。」
「まぁそう言うな。お前も、仲間も解放しよう。ブリガンドまでは俺が責任をもって連れていく。」
エイルに連れられてロビーに向かうと、既に皆は解放されていた。
「あんた、ヘイムダル国の船を沈めてただで済むと思わないでね。」
「オレは泳げねーんだ!死ぬかと思ったぜ!」
「まぁ待ってよ皆、この人が探してたエイルさんなんだ。」
「「えぇっ!?」」
「重ねて非礼をお詫びする。申し訳ない。」
「ふん、こんな無礼なやつだったとはね。」
ティアラは相当怒ってるみたいだ。
「ブリガンドで俺に会うのが目的だったのだろう、お互い手間が省けたというものだ。」
「お互いって、エイルさんも僕達を?」
「そうだ。『守護』の力の同調を検知してな。おまけに『狙撃』の同調者は常にヘイムダルの加護下にあった故、こうして会えたのもまた好都合だ。」
「なぁエイル、どうしてオレたちを襲ったんだ?」
エイルは少し考え込み、話し始めた。
「最近、『剣』の同調者とみられる男が各地で目撃されている。心当たりはないか。」
「うん、あるよ。僕がこの力を手に入れた時に襲われて、ティアラと出会ったあとにも襲われたんだ。」
「そうか…やはり同調者を狙っているのか…。」
「ねぇ、さっきから言っている同調者ってなんの事なの?」
「人類を救うとされる力の持ち主の事だ。棺桶を開けることを同調という。俺も、お前達二人も、そして剣の同調者『アベル』もその一人だ。」
「剣の…!アベルって言うのか!」
「俺はアベルを追って海を渡り歩いている。奴は危険人物だ。人類を救う力を使って、人類を滅ぼそうとしている。」
「やつは、アベルは自分の事を破壊者だと言ってた。」
「アベルは『剣』の力を利用し、俺達同調者、そして人類を滅ぼす為に行動している。」
「なんでそんなことを…。」
「さて、そこまではわからないがな。俺が把握しているのはこの程度の情報でしかない。」
エイルは続けた。
「俺がお前の『守護』そして『狙撃』の同調者を欲しがったのは紛れもなくアベルを倒すためだ。俺の力は『槍』だ。アベルの剣の力とは相性が悪くてな。できれば、このまま俺と行動を共にしてほしい。」
「そんなの当たり前だよ。僕達もその為にエイルさんに会いに来たんだから。アベルを何としても止めなきゃ。皆の力を合わせれば…。」
「助かる。この船は俺の指示で好きに動かすことができる。お互い何かの役に立つだろう。今暫く、よろしく頼む。」
「こちらこそ!」
僕はエイルと握手をして、ひとまずブリガンドの港へ向かうことにした。
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