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第五章「別れ」
ブリガンドの港は、港と言うより秘密基地のようだった。
「入江の中にこんな港があるんだね。」
「我々は対外的には海賊と呼ばれているからな。大っぴらに生活することはできん。」
「そうね、いきなり船を沈めてくるんですもの、立派に海賊だわ。」
「まぁそんなに怒るなよな。全員無事、目当てのエイルに会えたってだけでいいじゃねーか。」
エイルは少し開けた居住スペースに案内してくれた。
「ここでは各地で出会った孤児たちを引き取って生活させている。自らを義賊と呼ぶのはこの為だ。」
「本当だ。言われてみれば子供だらけだ。」
「孤児達はここで本当の生活を学び、やがて新たな孤児に教えていく。そんな循環ができているのだ。」
すると、何人もの子供達がエイルに駆け寄って各々話を始めた。
「…慕われてるんだね、エイルさん。」
「あの子達からすれば親同然だもの。無事に帰ってくるだけで嬉しいに違いないわ。」
「なんだ、急にエイルを認め始めちまって。」
「海賊行為を認めたわけじゃないわ。ただ、あの子達は少なくとも幸せな顔をしているもの。」
「ティアラ…?」
「なんでもないわ。お家柄、普通の家族ってものがよくわからないだけ。」
「…少しわかる気がするよ。僕やヴェインも、同じなんだ。あの子達と。」
「フィリップとヴェインも…?」
「僕とヴェインは物心ついた頃から両親がいなくてさ。街の人達に助けて貰って、大きくなってからは恩返しの意味も兼ねてマイナーになったんだ。」
「そう…。」
一通り話を終えたエイルが戻ってきた。
「待たせてしまって申し訳ない。君たちも天の恵みを受けていないだろう。この広場だけは天井がない故、天の恵みを受けることが出来る。なに、ほかの街のように堅苦しい儀式などないから安心したまえ。」
「よかったぜー!オレ、あの演説嫌いなんだよなー。」
「ヴェイン、ここに住んだ方がいいんじゃないかな?」
「海賊になるのはゴメンだぜ!」
僕達は一旦船に戻り、天の恵みまで待つことにした。
夢の中で、僕はアベルと対峙していた。
何度も何度も切り付けられて為す術もない。
僕には、耐えることしかできない。
─力が欲しいか?
「誰だ!?」
─守る為の、力が欲しいか?
「守る為の力…。」
─仲間を、そして人類を救う為の力だ。
「…欲しい。僕は、守るための力が欲しい!」
─よかろう。フィリップ、貴様にこの力、授けよう。
強い光と共に声は消えていき、僕は目を覚ました。
「おいフィリップ、もうそろそろ天の恵みの時間だぜ。」
「…ああ、ありがとうヴェイン。そうだね、行こうか。」
居住スペースの一角に、子供たちとエイル、そしてティアラが集まっていた。
「遅かったじゃない。待ってたのよ。」
「フィリップのやつ、ガッツリ寝ちまってよー。起こしに行って正解だったぜ。」
「ごめん、疲れてたのかな。間に合ってよかったよ。」
そうこうしているうちに光雲が降りてきて、いつものように天の恵みを浴びる。
その時だった。
遠くで爆発音がしたのだ。
警備兵が駆け寄ってきた。
「エイル様!やつが、アベルが旧市街に!」
「なんだと…!」
「きっと僕達を狙ってきたんだ!ここを戦場にする訳にはいかない!エイルさん、旧市街はどこに?」
「格納区画を抜けた先に大きな壁がある。その先が旧市街だ。」
「今度こそ逃がさねぇぜ!皆、行こうぜ!!」
僕達は旧市街へ向けて走り出した。
格納区画の大きな壁が開くと、そこにはアベルと…
「アイオーン!しかもこんなに沢山…!?」
ざっと見ても10機以上のアイオーンが僕達を取り囲んでいた。
「お前らなんぞ、アイオーン1機で殺れると思ったんだがなぁ。ちぃとばかり読みを誤ったみたいでよ、今回はそうは行かねぇぜ?」
「貴様…よもやブリガンドごと消し去る気か…!」
「世界を、人類を滅ぼすのが俺の目的だからなぁ。こんな小汚ねぇ掘っ建て小屋がどうなろうと知ったことじゃねぇ。」
「貴様…!」
「皆、行くよ!」
僕はすぐさま盾を出現させ、最前線に立った。
「それが甘ぇんだよなぁ?守ってるだけじゃ勝てねぇって事がまだわからねぇみてぇだな!」
取り囲んでいたアイオーンが、全方向から光線を放ってくる。
「くっ…!ダメだ、集中できない…!!」
「私やエイルの力もこの盾の外に出ないと使えない!どうしたら…!」
「…フィリップ、オレたち、家族みたいなもんだよな。」
「ヴェイン…?」
「大事な人が困ってる時に助けてやれねー家族なんて、家族じゃねぇよな。俺が囮になる。その隙に二人は攻撃してくれ。」
「ヴェイン!?無茶だ!ダメだよそんなの!」
「いいって。オレにはフィリップ達のような力もない。こんなピンチの時くらいカッコ付けさせてくれよな。」
するとヴェインは双剣を構え、光線の合間を縫って盾の外へ出てしまった。
「てめぇの相手はオレだあー!!!」
切りつけた双剣は、アベルの黒い剣によって防がれ、ボロボロと朽ちていく。
「ふん、力もないヒトが俺に敵う訳がねぇんだよ!」
アベルの一振りでヴェインは弾き飛ばされる。
「へっ…これで充分なんだぜ…今だ!ティアラ!エイル!」
「…わかった!」
ティアラは銃をアイオーンに、エイルは槍を構えアベルに向けて力を放った。
「やったのか…?」
舞い上がった砂埃が消え去ると、そこには、ヴェインの首を締め上げるアベルの姿があった。
「だから敵う訳がねぇって言ってんだよ。ただのヒトごときが舐めた口を効きやがって。」
「ぐぅっ…!今のうちに…俺に構わず打て…!」
「そんなこと、出来るわけないだろ!」
剣を構えたアベルがこっちを向いた。
「せっかくだ、ここいらで幼馴染の解体ショーと行こうやぁ!!」
アベルの剣が、ヴェインに突き刺さる。
何度も、何度も突き刺さる。
動かなくなったヴェインを、ヴェインだったものを、アベルが地面に放り投げる。
「ヴェイン…?嘘、だろ?…うわああああああああああ!!!」
その時、僕の右手の盾が光を放ち、左手に剣が現れた。
僕は、がむしゃらにアベルへ向かっていった。
アベルの剣と、僕の剣が交差する。
「ちぃっ!まさか第二の剣を…よりにもよってお前が覚醒させちまうとはなぁ!恐れ入ったぜ、人類の救世主様よぉ!!」
「よくもヴェインを!!!うおああああああ!!!」
力任せに剣を振るい、盾でアベルの剣を防ぐ。
「さすがは第二の剣…だがなぁ、闇雲に振り回してるだけのお前に負ける訳がねぇんだよ!!」
巧みな剣術で圧倒してくるアベル。
「くっ…!」
「ほらほらどうしたぁ!せっかくの剣が泣いてるぜぇ!?」
「僕は…守る力が欲しいと願った!だから!皆をこの剣で守るんだ!!」
すると、小さな剣が巨大な光の剣に変化した。
「お前なんかに、やられてたまるかあああああ!!!」
一振で地面が割れるほどの力を発揮した剣は、アベルの剣を折った。
「…この一瞬のうちにここまで力を引き出せるとは、本当に恐れ入ったぜ…。今日は分が悪い、引き上げさせてもらうぜぇ。」
「待て!逃がすか!!」
しかし、アイオーン達に阻まれ、アベルは姿を消した。
ヴェインの亡骸は、ブリガンドの墓地に丁重に葬られた。
僕は、ただひたすらに立ち尽くすしかなかった…。
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