第八章「世界」

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第八章「世界」

僕達は、バベルの塔の屋上へと向かった。 いつの間にか相当高いところまで登っていたらしい。光雲が遥か下に広がっている。 「アベルは、神に会ったことがあるの?」 「俺は会ったことはねぇ。いや、正確に言えば会えねぇんだ。」 「どういう事?」 「…神とは別の意識の集合体から生まれた存在だだから、でしょう?」 「ご名答。さすがは女王様だな。賢いぜ。」 「ならばこの先、何が起きてもおかしくはない。相手は神だ。万全を期して臨むべきだな。」 アベルは何かの装置の前に立つと、僕を呼んだ。 「神に選ばれたお前にしか、こいつぁ動かせねぇはずだ。ここに手をかざしてみろ。」 僕は言われるがままに、紋章の描かれた石版に手をかざした。 すると、装置が動き出し、僕達は強い光に包まれた。 「…ここは…?」 ─よくぞここまで来た、我が子達よ。 「この声は…。」 光がゆっくりと薄らいで行くと、そこには…。 「な…!なんだって!?」 そこには、あのヴェインが立っていた。 「何故ヴェインがここに!アベルに殺されたはずでは…!」 「驚くのも無理はない。我はヴェインとして、ずっとフィリップの監視をしていたのだ。」 「監視…だって?」 「そうだ。来るべき力の覚醒、この時を待っていた。我ながら中々の演技だったであろう?」 僕は、感情を抑えきれなかった。 「なんでだ、ヴェイン!どうしてこんな、裏切るような事を…!!」 ヴェインはゆっくりと歩いてきた。 「何か勘違いをしているようだな。我はヴェインという名を使いフィリップ、お前を導いていたのだ。」 「フィリップ、惑わされるな!あいつはヴェインだが、お前の知るヴェインではない!」 「…ではこうすればよいか?」 するとヴェインはいつもの笑顔で、僕に話しかけた。 「よう!フィリップ、調子はどうだ?ティアラもエイルも相変わらずじゃねーか!アベル、あれは結構痛かったんだぜー?ひでー事しやがる…」 「もうやめろ!!ヴェインの姿で僕に話しかけるな!!」 僕は盾と剣を出現させた。 ヴェインはゆっくりと歩きながら語り始めた。 「そうだ、その力だ。その力でアベルを倒し、我等は再びひとつとなるのだ。」 ─さあ、殺れ。 ─殺るのだ、我が子、フィリップよ。 ─さあ、殺れ。 僕の中に得体の知れない意識が流れ込んできた。 身体が言うことを聞かない。アベルに向かって力を向けてしまう。 「フィリップ!ダメだ!そいつの言うことを聞いては…!」 振り下ろした剣を、アベルがすんででかわした。 「ちぃっ!こいつぁ神に操られてやがる!もう俺達の言葉も届いちゃいねぇ!」 「今のアベルは丸腰だ。私達で時間を稼ぐ。フィリップ…意志を取り戻せ…!」 エイルとティアラが、フィリップと対峙する。 「くっ…盾と剣を手に入れたフィリップがここまで強いとはな…!」 「さすがは神に選ばれたヒトってところね。」 「急所を外しつつフィリップの動きを止めるぞ、ティアラ!」 「わかってる!行くわよ!!」 戦いの末に、辛くもフィリップの動きが鈍くなってきた。 「フィリップ!目を覚ませ!!お前の意思はその程度なのか!フィリップ!!」 「お願い!目を覚まして、フィリップ!!」 ーうっすらと、エイルとティアラの声が聞こえる。 ─僕は一体… 僅かに戻った意識の中で、エイルとティアラが僕と戦っている。 ─こんなの…違う。 ─僕は、こんなの望んじゃいない…! 「…僕は、守る力が欲しかったんだ…傷つけるためじゃない…!僕は僕だ…他の何者でもない…!!」 強い光と共に、僕の中の意思が身体を駆け巡る。 「僕は、守りたい。エイルを、ティアラを、アベルを、そして、ヒトの運命を!!」 「フィリップ!戻ったのね!」 「皆、ごめん!僕はもう、迷わない!!」 「我の制御下から逃れるだと…仕方ない、我が直々に神の裁きを下そう。」 「皆、行くよ!!」 神の力は凄まじく、僕達は翻弄されていた。 各々の力を持ってしてもその攻撃は盾を貫き、その防御は槍をも弾き返した。 「くそっ…!これじゃ全く歯が立たないよ!」 その時、背後から目にも止まらぬ速さで黒い影が駆け抜けていった。 アベルが剣を手に神に斬りかかっていた。 「アベル!剣は!?」 「待たせたなぁ、やっと俺にも力が戻ってきたぜぇ。お前ら!俺がこいつを引き付けている間に全力で力を解放しろ!」 「でも、そんな事したらアベルまで巻き込まれるわよ!」 「いいからやれってんだ!せめてもの罪滅ぼし……させてくれやぁ!!」 「アベル…。」 「仕方あるまい…皆、息を合わせて力を解放するぞ!」 僕達は神と激闘の末、神は動きを止めた。 横たわるアベルに駆け寄ると、まだ息はあった。 「アベル!しっかり!」 「へっ…散々邪魔して悪かったなぁ…。全ては俺たちヒトのため…ってことで勘弁してくれや…。」 「アベル…僕は…。」 「さぁ…決着をつけてこい。神と、人類と、そしてヒトの運命に…。」 僕はティアラにアベルを任せると、神と対峙した。 「何故抗う?何故運命を拒絶する?その為に生まれてきたというのに。」 「僕達はお前達の餌じゃない!僕達はこの剣で神を切り、そして僕達の未来へ進むんだ!!」 「我が生み出す光雲なくしてはお前達は生きることすらままならない。それをわかっての事か。」 「そんなのわかってる。ならば変えてしまえばいい。僕が神になり、ヒトがヒトとして生きられるように!」 僕は全身全霊をかけて、ヴェインに、神に剣を振った…。 ─ここは、どこだ…? 「ここは君の記憶や意識が具現化した世界。」 ─あなたは、誰? 「僕は神をも律する世界の理。本来、僕に姿かたちなどはないのだけれど、きっと君には見えているんじゃないかな。」 振り向くと、そこには少年が立っていた。 ─君が…世界の理…。 「フィリップ、君はこの世界を形作っていた神を倒した。今この世界はバラバラに散らばっている。必然的に、君が神としてこの世界を作り直さなければならない。」 ─僕が…作り直す…。 「フィリップ、君は何を望む?」 「決まってるさ。僕は、神無き世界、ヒトがヒトとして生きられる世界を望むよ。」 「それが君の答えなんだね?」 「もちろんだよ。例えこの先何があっても、それは神の運命なんかじゃない、僕達ヒトの選んだ道なのだから。」 少年は頷くと、強い光と共に消えていった。 僕の意識も、段々と遠のいていった…。
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