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第九章「そして」
─僕が望んだ世界は、僕達ヒトに全てを委ねられた。
光雲も力も必要としない、ヒトによるヒトの為の世界。
神の糧としてではなく、ひとつの生命体として生きていく。
それは時に争いも生んでしまうけれど、それもまたヒトが選択した未来なのだ。
僕は皆と別れたあと、街に戻りマイナーを続けている。
ジェネレーターの発掘は、今やこの街の重要な貿易資源になっていた。
「よし…ひとまず休憩にしよう。日差しも出てきたし、無理は良くないよね。」
そんな時、街の門番が僕に駆け寄ってきた。
「…ヘイムダルからの特使が、僕に…?」
どうやら王都から誰かが僕を尋ねて来たらしい。
町役場の来客室へ向かうと、そこには…。
「全くいつまで待たせるつもりだったの?」
「ティアラ…!ティアラじゃないか!」
「久しぶりね、フィリップ。」
久々の再会に、僕らは近況を報告し合った。
「フィリップ、今日はひとつお願いごとがあって来たの。」
「お願い?なんだい?」
「王都に、ヘイムダムに来てくれないかしら?」
「王都に?今でもたまに物資を届けに行ってるけど…?」
「そうじゃなくて…その…。お父様、ヘイムダム王が次期後継者をあなたにって。」
「えぇっ!?つまり、僕が王様に!?」
「そういうこと!直々の命なんだから、拒んだら死ぬわよ。」
「…でも、そうするとティアラはどうなるの?」
「決まってるじゃない。あなたの妃になる事になるわ。」
「えええっ!け、結婚するってこと!?」
「何、不服でもある訳?」
「そ、そんな滅相もない…。顔が怖いよ、ティアラ…。」
「それに、前に言ったでしょ。ひとつ貸しにしとくって。ちゃんと返してちょうだいよね。」
ティアラはひとつ咳払いをすると、ゆっくりと歩き出した。
「それじゃ、支度ができたら出てきてちょうだい。飛行艇を用意してあるわ。あの樹海をまたさまようのはごめんだもの。」
「あはは、そういえばそうだね!樹海で迷子になったんだもんね!」
「う、うるさい!!早く支度をしなさい!」
「はーい。皆にも挨拶して行かなきゃな。」
未来は何があるかわからない。
だからこそ、人生は楽しいのかもしれない。
僕はそんな事を漠然と思いながら、鞄を持ってティアラの元へ走っていった。
fin.
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