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and then…
数日後、江坂先生の遺体は、富士の麓で訓練中の自衛隊によって発見された。
先生はおそらく、自衛隊の演習地が近々変更になることを知っていたのだろう。
だから新作の上梓を急いだのだ。
発売前に遺体の身元と死亡時期が判明してしまえば、江坂亜久里の新作として出版するのは不可能だ。しかし店頭に並んだ後であれば、謎の遺作として話題を呼び、売れ行きに拍車がかかる。
果たして江坂亜久里の遺著「アンビリーバーズ」は、ベストセラーになった。
俺はデスクに置いた一冊を見て思う。
この本を読んだ人のうち何人が、江坂先生のメッセージに気づくだろう。
それを一人でも多くの人に届けるために、俺はカワウソを描いた自作のPOPを相棒に、今日も書店をまわる。
『情報ってのは全部、人に見せるために誰かがこしらえたもんだ。
信じるな。
騙されるな。
自分の頭で考えろ』
生意気なカワウソはそう言って、ニヤリと笑った。
【了】
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