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Day 1
江坂先生は、いま日本で最も注目されている小説家の一人だ。
いわゆる「出せば売れる」人気作家。さらに、まことしやかに囁かれる彼の噂が、ゴシップ好きな大衆の興味を強く惹きつけるのだろう。
「江坂阿久里にはゴーストライターがいる」
それがただの噂ではないと知ったのは、5秒前。
江坂先生ご本人に初めて会った俺は驚愕した。目の前に立つ彼の身体が、つま先まで透けていたからだ。
(ゴーストライターって、普通そういう意味じゃないだろう……?!)
「見えるんだな? 桃山」
幽霊を凝視する俺に、編集長が聞いた。
沈黙は肯定だ。彼は安堵の息を吐くと、俺の肩をポンと叩いた。
「じゃあ決定だ。今からお前は江坂先生の専属。脱稿まで出社する必要はない。詳しくは前任の千里に聞いてくれ」
「はぁ?!」
「そういうことですので、江坂先生。至らぬ点もあるかとは思いますが、桃山をよろしくお願いいたします」
「ちょ、待……っ」
俺の困惑をよそに、編集長はあさっての方向に頭を下げ、会議室を出て行ってしまった。
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