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……ふと、少年の頭の中でレミアの声が流れた──
(──ねえ……聞こえてる? 聞こえてるなら、私の声に答えて……)
(だれ……? ぼくのことを呼んでるの……?)
(ええ、そうよ……安心して。この空間にはあなたを傷つけようとする者は入ってこない……)
(……ぼくをころして! もうだれも食べたくない……)
(じゃあ教えて……スキー場できみに何があったの?)
(……スキー場? うーん……あの日は鹿を追いかけてたよ……でも吹雪にあって洞窟に隠れた……するとだんだんお腹が減ってきて……そしたらね……雪のお兄ちゃんが肉をくれたんだ……)
(“雪のお兄ちゃん”? ……きみ以外にもう一人いたの?)
(うん……ぼくと一緒で仲間とはぐれたんだって……真っ白な服とズボンを着ててちょっとおかしな人だったけど、食べてみたらすっごくおいしくて……でもお腹がすぐに空いちゃった……)
(なるほど。その肉が原因か……)
(でもね……ぼく見ちゃったんだ……雪のお兄ちゃんがぼくに隠れて人を殺して肉をさばいてるのを……)
(──古来から人間の肉は決して食べてはいけない“禁断の食物”と云われている……飢えた状態で一度その味を知ったら最後。麻薬のように中毒状態となって、食人衝動から逃れられなくなる……)
(でも、ぼくは大人のひとに助け出されてから、人間の肉は絶対に食べないって誓ったんだ……でも、でもね……お腹が空いて、我慢できなくなって……女の子をつい、かじっちゃった……)
レミアと少年が頭の中で共鳴し合うなか、少年はあどけない子供の表情から一転、血に飢えた目つきへと次第に変わり始めた。
(アの子のニク……トッてモ美味シかったナぁ……)
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