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2 人妻の肖像画
マリーは、マルクスの描いた美人画を見た事があった。麗しく上品で、隠し切れない色香漂う人妻の肖像画だった。
あの絵を思い出す度に、マリーはその人妻に嫉妬をしている自分に気付かされた。肌の色は乳白色に血が通って薄紅色を映し、潤んだ瞳と柔らかな笑みは男女の秘事を既知に感じさせるような……艶やかさ。マルクスがどんな目で彼女を見詰めたのかと想うと、マリーは酷く切なくなる。
マルクスを見れば、令嬢を前にしても身なりも礼儀も尽くさず、乱雑に後ろ髪を結えている。ただ、美人画に負けず彫りが深い整った顔が、乱れた前髪で隠し切れていない。はだけたシャツに肉感的な胸板が形を見せて男らしくマリーには刺激が強かった。
マリーはマルクスに見惚れているのを隠す様にチラチラと視線をずらしては、つい見入ってしまう。
——でも、私がモデルじゃやる気が起きないわよね。マルクス……私はマルクスのモデルに相応しいほど美しくない。
マリーは、自分がマルクスにどの様に描かれているのか興味がありつつも、あの美人画に劣るものとしか想像出来ず哀しい気持ちになっていた。
それでもマリーはマルクスへの片想いが大きくなることを止める事が出来ない。
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