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3 何度目かの胸の痛み
マルクスが描いているマリーの肖像画はお見合い用にと依頼しているのにも関わらず、マリーはマルクスに恋をしていた。
なかなかキャンバスに描き始めないマルクスの遅筆に、マリーは退屈で満たされる愛おしい時間が永遠に続くことを願う様になっていた。
例えマリーがマルクスの姿に視線を留めて目が合ったとして、その目を鋭くして反らされたとしても。
コンコン……
サロンのドアをノックする音が響いて、マルクスの手が止まった。「どうぞ」とマリーは返事をした。
「マリー様、お館様がお帰りになりました」
メイド長がドアを開けてマリーに伝える。
「分かったわ。お父様をお迎えに参ります」
これでマリーの時間が終わりを告げたとばかりに、マルクスは画板に素描の紙とスケッチブックを重ね、画材とイーゼルを片付ける。
「マルクスさん、お館様が晩餐にいらっしゃる様にとのことです」
「了解した」
手短に応えたマルクスは、早速さと荷物を脇に抱えてマリーとメイド長の横を通り過ぎサロンを出て行った。
——やっと私から解放されたみたいに……逃げる様に去って行くのね。
今日、何度目かの胸の痛みを感じるマリーだった。
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