さよなら俺の平穏

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男の娘をおんぶして、体育館の後ろの方にいた先生達にも事情を伝えてから保健室に向かった。先生達に話し終えると「先生らが代わりにその子を連れて行くかい?」とか言われたが、背中の男の娘が首に回っている腕の力をギュッと強めてきて振り返ると「断って…」と言いたげなキラキラとした目でこちらを見続けてくるため、そのキラキラ光線に負けて「大丈夫っす」と先生らの気遣いを断ってきた。だが…。 「…あの、俺実は転校してきたばっかだから保健室の場所わからないんすよ」 眉尻を下げて俺は男の娘に助けを求めた。 保健室の場所どころか、未だに登校する時に自分の教室の場所を忘れるぐらいだからこの学園のことをまったく理解していないのだ。 「…うん、それなら僕が場所を教えるね!」 にこっとしながら答えてくれたが…一瞬の間はなんだったんだろう。少し気になったがまあ大した事でもないかと思考を放置した。 「まずそこを左に曲がって!」 「うっす」 男の娘は指をさしながら誘導する。言われた通りに左に曲がった。 「次はそのまま真っ直ぐ行って!」 「今度は右に!」 「え?このままじゃ外に行っちゃう…?この道からの方が保健室に近いんだよ!」 その後もその子の誘導に従い続けた。ちょっと訝しげに思いながら。 「…なあ、ほんとに保健室ってこの道であってんの?」 俺は歩き続けながらその子に聞いた。 「うーん、確かにちょっと遠いかもしれないけど我慢して!」 「いや、我慢っつーか…ここ、外なんだけど」 「…うん、ここら辺かな!下ろしてくれて大丈夫だよ」 答えたくないからかスルーかよ、と更に危険視しながらそいつを背中から下ろした。 「…そんで、こんな変な外の所まで案内してきてどういうつもりなんだよ」 改めてそいつと向き合って睨み付けながら訊ねるが、ずっと相手はニコニコしたままで表情を変えない。 「おい、なんとか言えって…」 「好きだよ」 突如出てきた言葉に目を丸くする。 「…は…っ!!」 という間もなく頭に激しい衝撃が走った。か弱いからってついて行くんじゃなかったと後悔しながら目の前が真っ暗になっていった。 「…嘘、アンタなんて大っ嫌い♡」 最後に見たのは、狂気の色を目に浮かばせながらほくそ笑む目の前のヤツの姿だった。
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