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互いに無言のまま、俺は聖さんに着いて行く。普段のせっかちな俺だったらすぐどこに向かうか伺うが、聖さんの溢れ出る、威圧感も含まれる強いオーラに気迫されていた。
そして目立たない草地の所まで来ると、漸く聖さんは足を止めて俺へと振り返る。
何かを言いたそうにしていて、何を言い出すのか俺は全く想像出来なくて身構えてしまう。
「…おい」
「…はい」
さらに俺の近くへと長い足で駆け寄ってくると、いきなり俺の肩に腕を回された。驚いて次は何をしてくるかと息を飲んだ。
「一緒に寝ろ」
「…あ?」
低音イケボで目が白黒するような台詞を吐くと更にまた片方の腕で俺の首に前から腕を巻いて抱き着かれた状態で一緒に草むらに倒れ込まれた。
「え、は、ちょ、ちょっと??」
「……スー」
「寝るのはや…」
さっきあんなに人を殴ったり蹴ったりしといてあどけない寝顔だった。それとやっぱりよく見るとイケメンである。
「…こっそり逃げよう…」
と、思ったが、前からも後ろからもガッチリ抱き着かれていて何らかの方法を試しても自身の体は微動すらせず逃げ出すことは出来ないようだった。
「…マジか」
「……スー」
「…ようやく寝たか」
さっきとは立場が逆転したかのように聖は目を開けて小さく呟いた。
健やかないびきを立てている正樹を起こさないように抱き着いている腕をそっと離す。
そしてぐっすり眠る正樹を見守るように横になった。
「…無防備な顔」
さっき倉庫内で襲われていた正樹の様子が不意に頭に浮かぶ。本当は聖は正樹が瑞希に連れ込まれた所から起きていて、制裁だと察して面倒だからとわざと放置しようとしていた。
(…なのに、加害者を守ろうとするなんて、どんだけお人好しなのか…)
愛くるしくすら思えてくる顔を優しく撫でる。
(でも、そこで気になっちまったのかもしれない。誰なのかも知らないコイツのことが)
嫌がっていながらも、どこか甘く切ない喘ぎ声。正直アレで聖の息子もやられて直ぐに助けようとしたものの動けなかった。
(そんだけ魅力されたのか)
伏せ目がちになりながら、正樹の顔を撫でていた手を移動させて今度は乾燥した唇を親指でなぞる。
(美味そう)
ゴクリと唾を飲んでゆっくりと正樹の顔に近づいていく。だが、複数の足音が聞こえてハッとなり、すぐさま離れた。
「この足音…あいつらだな」
頭を搔いてはあ、と息を吐き出す。
「…絶対にまた、会いに行く」
当の本人は眠っているから聞こえないのに、約束するような口振りで聖自身でも変な笑いが込み上げた。再び顔を正樹の顔に近づけて額を数秒合わせると、聖はその場から離れて行った。
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