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委員長の姿が見えなくなるまで俺と奏介先輩で見送った後、再び先輩は俺に向き合ってきた。緊張で手に汗を感じる。
「…それで、用ってなんだよ」
「まあそんな身構えんとってな」
「いいから早く用件を話せよ」
苛立ちを声に乗せて苦虫を噛み潰したような顔をした。
だが先輩は黙り込むと急に眉を下げながら真剣な表情をしてきた。な、なんだ…?
「…あの、この前はごめんなぁ」
…は!!?
思いがけない言葉に口をあんぐりさせたまま固まってしまう。
「その、この際言っちゃうけど俺、正樹が初めての初恋相手で…せやからその、早とちりしてもうて…って聞いとる?」
「…あ?わ、わりぃ聞いてなかった」
「…せやから!俺は正樹のことが好きやねん!!」
顔を赤くして懸命に力強い声を出す。このタイミングで告白されるとも思ってなくて目をぱちくりしてしまう。
これはYESかNOか答えなくちゃいけないやつだろうか。でも生憎俺はノンケだし男をそんな目で見ることは出来ない。なので答えはもちろん決まっている。
返事をするために口を開こうとするが先輩が「ちょう待て!」と手で抑えてきた。
「もう答えは察しとるんや。せやから返事はええ。これから好きにさせればええだけやからな」
先輩はそう言って明るい笑みを見せた。それから頬をピンク色にして弾むような声で語り始める。
「…初めて正樹を見たのは食堂やったんや。ほら、あのワカメっぽい髪型してたヤツが泣き喚いてた時があったやろ?」
ワカメっぽいって…裕二のことだろうか。軽く悪口なんじゃと一瞬思ったがこくりと頷いた。
「ほんでピリピリした雰囲気の中出てきて、あのワカメっぽいヤツを慰める男前っぷり…めっちゃかっこええなあって思って、気がつけば一目惚れしてしもうたんよ」
「まあそこからは委員長に報告しに行っちゃったから見れへんかったんやけどな」と惜しむように苦笑する。
…てか普通にそっから見てたんだな、この人。前のことなのになんか恥ずかしくなってくる。
「せやから、俺はこれからも正樹に振り向いてもらえるようにアタックし続けるって言うことを伝えたかったねん。…もちろんこの前程手荒なことはせえへんけどな?」
やっぱり真剣な声で言われて戸惑う。なんて言葉を返せばいいのか…。
「…そっか、ま、まあ頑張れ」
「他人事やなーまったく!」
自分でも思ったよ申し訳ない。先輩は「よっこいしょ!」とおじさんみたいな台詞を言ってから立ち上がる。
そろそろ体育館に戻るのかなと思い俺も立ち上がる。だが先輩は2、3歩歩くと何故か立ち止まった。俺も驚いて立ち止まる。
「… せやけどね、俺ってかなり嫉妬深いんやと思うねん。さっき委員長のたかが妄想だっていうのに苛ついてしもた」
さっきと比べて力のない声を出すが、先輩は背を向けているため表情が伺えない。
「…お、おう」
「せやからさ、正樹の方からでも俺を嫉妬させるような行動したら…」
スローモーションのようにゆっくりと俺の方に振り返る。黒い炎を燃やす目も晒しながら、
「俺のことしか、見えへんようにしてまうかもしれへん」
三日月のような笑みを口元に浮かべていた。
「……」
「…なんてな!そんな怯えんとってな!」
不気味な笑みを一瞬で失くして明るい笑みに戻った先輩は俺の肩に腕を組んで体育館へと一緒に歩かされた。
…警戒心を失くしていたが、先輩相手に気を許すことが出来る日は来ないかもしれない。
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