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緊急手術
担当の医者が出てきて私たちを招きいれた。
「奥さんですね」
CTの画像を見ながら淡々と説明してくれた。
「今回の病気は病名は脳動静脈奇形といいます。生まれつきの血管の異常で若くして破れることが多いのですが破れると意識がなくなります。直ちに破れたところの止血をしないといけません。今回は破れたのが脳の下の方の最も生命に関与する部分に近いので場所が悪いのです、緊急でこれから頭を開けて出血を止めて来ます。出血は何とか止められると思いますがそれまで脳が持つかどうかは不明で、意識の回復しないことやかなりの後遺症、場合によっては植物状態になる可能性も覚悟しておいてください」
「助かるのでしょうか」
「御免なさい、かなり厳しいです、とにかく全力を尽くします」
「よろしくお願いします」
それまで黙って隣に居た父がスッと立ってその医者のところにいった。
「酒井君だよね」
「あ、斎藤教授」
「私の娘の夫なのだよ。よろしく頼むよ」
「あ、お久しぶりです、そうでしたか、とにかく結構厳しいとは思うのですがやるだけはやってみます」
その若い医者の顔は心なしか紅潮していた。
今までこんな父を見たことはなかった、家で仕事の話をすることはほとんどないし、ましてや教授と呼ばれる父を見るのも初めてだった。
同じ仕事をしているからなのだろう、ことの緊急性が心配事ではなく事実として、客観的事象としても把握されているのだろう、父の姿からは奇跡は期待していないという冷めた雰囲気も伝わってくる。
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