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キーストーン
それを見て私はとても不安になった
私は今までにない急な不安に襲われた。
せっかくしっかり組み込んでいたものが、何かそのキーストーンを取られたようなとても不安定になってしまった。
1年かけて組み込んだ橋桁がキーストーンを取られて崩れ落ちていく。
手術が始まったのは夜中の3時過ぎだった。
父も私ももう無言でひたすら待った、ひたすら。
一言も口を聞かなかった、なんという言葉を出していいのかがわからない。
夜遅いから寝ようかとも言わない、言えない、そんな気分でない。
私はキーストーンの外れた橋をなんとか再建しようと心の中でもがいていた。
どうしたらあのピタッと感が得られるのか、体を左右に捻っても、上下に動かしても、どうやっても何か外れている。イライラが募るばかり。
なんとなく夜が開けてきたことが薄暗い廊下からでもわかる、表から鳥の声も聞こえてきた。いつもの雀の鳴き声はおよそなんの感情ももたらさない。時計はもう直ぐ7時を示そうとしている。
突然名前を呼ばれた。
「今川さん」
「はい」
「看護師の内藤です。 手術は終わりました。先生からお話がありますのでそのままもうしばらくお待ち下さい」
なんともここの看護師はみんなロボットのようだ、マニュアルだけで、その口調からは何も感じない。
きっと彼女たちはしっかり仕事をしているのだろうが、私たちにそれを受け止める余裕がないということなのだろう。
さらに待つこと15分、酒井先生が現れた。
「教授 あ、今川さん。なんとか出血は止めることが出来ました。ただ脳の炎症がとても強く脳が強く腫れています。ですので頭の骨を元の位置に戻せない状況です。しばらく頭を開けたまま様子をみることになります。
教授 とても大きな動静脈瘻で、流入動脈が2本ありました。2本とも破綻しており、結局その根部で結紮せざるを得ませんでした。ですのでかなり広範囲の虚血が起きています。その結果腫れがとても強くて開けたままにせざるを得ませんでした」
目の前が真っ暗になって行った。キーストーンが体から離れて行く。
ああ、だめお願い、離れないで。
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