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その倫子の悲しみは、いかばかりだろうか。
想像できるものではないけれど同じように由美子を失った俺はその真っ暗な日々に今でも浸かっている。この喪失感は本当結構大きいよ、何をやっても埋めることなんてできやしない。
でも待てよ、ふと脳裏に閃いた。
“鉄男君の精子を温存できればそれはそれで鉄男君をつなぐ可能性は保持できる”
そうだよ、凍結精子保存をすればいいのだ。いや、ダメだ。今は。
もう鉄男君の脳を保存するために人工低体温環流をしている。これでは鉄男君の精子は活性がなくなっているからこれは使い物にならない。
精子を保存するには元気な睾丸の状態で新しく生成されたものでなければならない。それにはどうするか。
今の睾丸が元気になるには。それは鉄男君が元の状態に戻る必要があるがそれは望むべくもない。
でも、待てよ、お前は移植医ではないか。そうだよ、鉄男君の睾丸を誰かに移植すればいいのだ。
そうすればその睾丸は元気になるし3カ月もすればいい精子を作っているだろう。そうだよ、睾丸移植、確かに禁じ手ではある、倫理として、でもこれはもしひそかにやるのなら誰にも言わなければいいだけのこと。
お前は日本一の移植医だ、技術的問題点は何もない。
でも誰に移植するのか。倫子自身、それはダメだ、女性では睾丸が女性ホルモンで萎縮してしまう。
男で自分以外の睾丸を入れてもいいというやつはいるか、いるわけないが、けれど一人いるな。
確かにこいつならぶつぶつ文句は言わないだろう。
それに高齢だから自分の睾丸はもうあまり元気でない。
若い奴のを入れれば、それこそ最高の回春だよ。
それは誰、つまりおれ自身しかいないさ。
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