キーストーン

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 俺が鉄男の睾丸を入れて、あとで倫子にそれを入れる。確かにこれはずば抜けた考えだ。普通なら荒唐無稽ではあるが技量と知識がそろっている俺ならばできない話ではない。 実際睾丸移植の手術はそれほど困難なことではない。 父親と父親から出た精子が遺伝的につながらないという親子関係に複雑な問題をもたらすので、倫理として人間では禁止しているだけだ。 俺のような移植の一人者がその倫理を犯していいのか、良い訳はまったくない、だから禁じ手なのだよ。 禁じ手をしたら当然それは非難されるだろう。 でも俺はもう少ししたらいなくなる。人の噂も七十五日だよ。 ただ単に俺は静かに余生を暮せばいいだけ、鉄男君の睾丸とともに。 そうすれば倫子と鉄男君の子どものことを遠くからみていることができる。 それに何と言ったって今の倫子の悲しみを取ってやるにはほかに方法がないではないか、倫子にとって鉄男君が唯一、これはずっと変わらないだろう。 そしてやるなら今しかチャンスはない、鉄男君がまだ生きている今のうちにしか。  
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