キーストーン

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 負けた蜷川が口を開いた。おずおずと。 「教授、もしかしてそのご主人の睾丸を移植するとか、それはだめです、禁じ手ですから」 「いや、まだわしは何も言っておらないよ。君がそう思うならその通りということだ。尤も移植医ならだれでもが考えそうなことだが」 「ええ、ですからそれは禁じ手ですと」 「一般的にはだよ。だがもし秘密裏に誰も知らなかったら」 「どうやって、秘密裏にできるのですか」 「手術にはいろいろな人が立ち会いますよ」 「そうかな、君だってわかるはずだよ、あれはそれほど困難な手術ではない、一人で十分できる。実際君は犬ではたくさん移植しただろう、一人で」 「確かにそうですが、それは動物実験です」 「犬より数倍大きい人間ならはるかに簡単だよ、特に君のような多数例の経験者ならなおさらだ」 「まさか、教授、私にその役割を、それはないですよ、それはできません、ばれたら首が飛ぶぐらいではすみませんから」  
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