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DAY-1
雲ひとつない快晴。
遠くに雪化粧した谷川の山々が望め、眼下には湯沢の町並みが広がる。
大自然と一体になって、真っ白な銀世界でターンを刻むこの瞬間に、忙しい日常から離れて頭を一度リセットする。
直斗さん。
あなたに初めての会ったこのゲレンデで、
思い出がたくさん詰まったこのゲレンデで、
私はこの想いをリセットできるでしょうかーー。
"ずっと一緒にいようね"
"好きだよ"
"愛してるよ"
"ずっと言えなかった"
"お前は俺がいなくても大丈夫だよ"
"ごめん"
、
《そろそろ朝食の支度するから下りてきなさい》
ウェアのポケットからスマホを取り出すと、兄からタイミングよくメッセージが届いた。
「いっけない…浸りすぎた」
ビンディングの締まり具合を確認しながらゴーグルを装着し、まばらにしか人のいない早朝のゲレンデを一気に麓まで滑り下りた。
「遅いっ!!いつも6時までに戻れって言ってるだろ。まったく深雪はいくつになっても…」
『ごめんってば。言い訳するわけじゃないけど、見て?すっごい綺麗な朝焼けなの。そんな中でパウダースノーを味わいたいじゃない』
「つべこべ言わないでテーブルセッティングしなさい」
雪山好きが高じて、年の離れた兄・朱司がこのペンション"ソウル"をオープンさせたのは3年前。格安で売りに出されていた物件に目を付け、脱サラして夢を叶えた。
結婚したばかりにも関わらず、文句一つ言わずに兄についてきてくれた花織さんは今、大きなお腹をしている。
もうすぐ出産ってこともあり、シーズン終了のゴールデンウィーク頃まで私はここで働くことになった。
ちょうど仕事を辞めた時だったし、ふらふらしているなら手伝いにこいって兄は言ってたけど、本当は私を一人にさせないためだって花織さんから聞いた。
任侠映画に出てきそうな強面だけと、心優しい母のような兄。
そして、大学2年の弟・青士。
冬休みの期間だけ、"ゲレンデマジックに期待" とか言って手伝いに来ている。
兄とは腹違いかと思うほど似てなくて、この子は仔犬のように可愛い顔と、調子のいい性格が私にとってはツボの弟。
私は小林深雪。
はるばる神奈川県からこの新潟県湯沢町まで失恋の痛みを癒しに来ました。
『さぁて、今夜は団体さんが来る日だね!お兄、気合いいれて!』
「それはお前だ!」
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