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剣士は、妖刀の言い分を聞きたくはなかった。
刀の心などわからぬふりを自らにしてみせ、妖刀から心を逸らした。
そしてまた、死を怖れる自身の心も見たくはなかった。
水神の名と神力をもつ、自らの守り神でもあるはずの刀の言わんとすることを、彼はあえて無視しようとした。
そして、必死に考えた。
馬鹿げた考えだと、半ば思っていながら。
あの領主を、果たしてどう説得できるだろうか。
自分が口達者だなどとは、男は自分でも到底思っていない。
では、このまま姿を消すか?
そしてどうなる。
龍を怖れ、斬首刑を怖れて逃げ出した”無敗の剣士”。
今度は生き恥を晒すだけだ。
ならば。
男は沼のほうへ踵を返そうとして、足に力を込めた。
が、そのまま動けずに迷っていた。
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