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刀が嘲笑っている気がした。
”おまえはもとより、そのつもりだったのではないか。
初めからすべてをわかっていたのではないのか?
龍を倒せば英雄になれる。
浮世の理とはそんなものだ。
それに従えばよい、迷うことはないと。”
沼へ行けばいい。
と、男は思った。
手にじっとりと脂汗を感じた。
この「水槌」で、水神を殺すのか。できるのか?
いや、それでいいのだろうか。
”刀はただの刀だ。使い手の動かすとおりにしか動かぬもの。”
沼へ戻ろうと、再び男は足元に力をかけた。
しかし、それが何を招くのかを、彼は知っていた。
男の額からは冷や汗が流れ落ち、彼は肩で息をしていた。
土地の守り神を殺せば、この地はこれから先、未来永劫、幾度も災いに見舞われるだろう。
なぜ、それらの災いが起こるのか、誰もわからぬまま。
そして、守り神を封じた祈祷師と、殺した男とが、英雄として崇められるのだ。
「いや。それだけはできない」
男は再び、妖刀”水槌”に手をかけ、今度はしっかりとその柄を握りしめた。
「あんた――いや。貴方ならば……」
刀がはっきりと頷いた。
”苦しまずに、おまえは死ねる。”
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