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翌朝、剣士は村に戻った。
村には領主と祈祷師がいて、剣士の帰りを待っていた。
「首尾は?」
と訊く二人を、剣士は黙って見つめた。
そうして、やおら言った。
「竜神は倒さぬことにした」
領主と祈祷師が、顔を見合わせた。
祈祷師が言った。
「どういうつもりか。
竜神は、生贄を求める邪神だ」
しかし剣士は決然と返した。
「嘘だ。あなたこそが、邪術で竜神を縛りつけ、その契約を為したのだ」
祈祷師はぐっと黙った。
剣士は続けた。俺が言える科白でないなと思いながらも。
「あなたは竜神を怖れ、その声を聞こうとしなかった。
そして得意の妖術を使い、竜神を従わせ、神の望まぬことを行ったのだ」
人は、怖れるものを制御したくなる。
しかし、竜神を怖れることが、竜神を怖るべきものに変えているのだ。
怖れることで、怖ろしくなかったものを怖ろしいものにしているのだ。
人間の怖れと自惚れとが、これほど優しい守り神を、邪神にし、祟り神にしてしまうのだ。
「契約と言い、代償を払うと言うなら、竜神が何を望んでいるか、まず尋ねるべきだ」
祈祷師は黙り込んだ。
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