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祭りが終わった夜のうち、剣士は旅立つ準備をした。
――俺は、形ばかりは水槌を守ってきた。
だが真に守るべきものを忘れ、自らの過ちで失ったのだ。
水槌を「妖刀」にしたのは俺だった。
今度こそ、本当に正しい道を求めねばならない。
”そうだ。”
どこからともなく響きが聞こえた。
それは水槌のようでもあり、同時に、沼の主の竜神のようでもあった。
それは、こう告げた。
”水槌を物怪とするも神剣とするも
おまえの心がけ次第。
そしておまえ自身も。”
男は身の震えを感じた。
”もし龍を殺めていたなら、あるいは娘を犠牲にしたなら、
おまえは人ではなくなっていた。
妖怪となり、永遠にこの世を彷徨うたかもしれぬ。
それが道理。”
「助けられたのは俺だったのか」
”道理はただ、あるがままある。
落ちる道を行けば落ちるだけだ。
しかし”
”神々はいつでも
おまえの傍にいる。
おまえたちすべての傍で導いている。
幸福のほうへ。
それを人は「正しい道」と呼ぶのだろう。
大いなる命の源はひとつで、心を開くなら、
皆がそれに通じる道をもっている。”
ただ、人がいつの間にかそれを忘れて、大事なものを失い、神をも悲しませる。
剣士は静かに刀を手にした。
それは何も言わない。
水槌に守られてきたのは彼だった。
彼が刀を守っていると思っていた長い間。
男は修行を求めて発った。
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