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そうしたわけで、竹藪の中の細い道を、男は沼へと歩き続けている。
”妖刀”も、今夜はすこぶる不機嫌そうだ。
否、今思えば、初めに使いが現れた時からずっと、刀は、どこかいつもと違っていた気もする。
腰に差した刀に手をやりながら、男はその刀に向かって言った。
「あんたの名が『水槌』だということまでは、世間には広まっとらんようだな」
当然、刀は黙っている。
ミヅチとは蛟、つまり水神に通じる名だ。
「必ず、あやかしを倒して来てくれ」
領主はそう言った。
しかし、沼の主は長い間、この地を守ってきたものではないのか。
剣士はそう言って、領主を説得しようと努力はした。
しかし娘可愛さなのか、領主は剣士の話に耳を貸そうとはしない。
そして最後には結局こう言った。
「もしも、おめおめ帰ってきたなら、そなたを打ち首にいたす。
相打ちしてでも必ず倒して参れ」と。
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