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沼に着いた。
やはり邪気はなく、辺りはしんと静まり返っている。
そしてどこか、悲しみに満ちていた。
沼の主は、おそらく知っている。
男が自分を倒すためにやってきたことを。
そして、男と妖刀の力を。
――本気で倒そうと思えば、俺はまず、この沼の主に負けることはない。
男はそう察した。
それほどに、この沼の神は優しいのだ。
これまで、誰かと戦おうとしたことなどないはずなのだ。
男は沼の淵に立ち、言った。
「御覧じておられるだろう、沼の主よ。
どうか我に姿を見せ給え」
水面がわずかに動いた。
その真下に、巨大な龍が泳いでいるのを男は見た。
その様子は物悲しげだった。
男は、龍に尋ねた。
「なぜこんなことにおなりになったのか」
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