剣士と竜神

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”我は、生贄など求めはしなかった。”  龍が言った。 ”すべては、あの男――新しい領主が頼んだ祈祷師の行ったこと。  我は、その契約を呑むつもりはなかったが、  祈祷師は妖術を使って、我を縛り、  我が契約を受け入れるまで  その術を解かなかったのだ。”  男はうなずいた。 「あなたには、生贄など必要なかったのですね」 ”無論。”  ただいつものように、村人たちが楽しく祭ってくれさえすれば、竜神は雨を降らせることができたはずだった。 「領主と祈祷師の思い込みか」 ”恐れであろう。彼らは、我やほかの土地の神を恐れておる。”  しかし、いかに竜神が嘆こうとも、為されてしまった契約は果たされねばならない。 「どちらを望むのです」  男は、不機嫌な妖刀に手をかけながら龍に尋ねた。 「私は、あなたの望みを聴きたい。  生贄をとり、ここで村を守り続けることを選ばれるのか、  それとも――領主の娘のために、私に、今ここで殺されるのか」  竜神は黙っていた。  人間を殺したくない、という竜神の意思を、男は感じた。  それで男は、こう尋ねた。 「自ら行った契約を曲げて、道を外れ、  神々をおろそかにして歯向かおうという人間がいる。  その、道理を曲げる者を、神であるあなたが、かばうのですか」  竜神は答えない。
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