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―――おかしな事がある。今、彼は指定された机ではなく、こちらに歩いてきているのだ。
「北大路くん? 席はそちらではありませんよ」
先生の指摘に耳を貸すこともなく、ただまっすぐ俺のところにむかってくる。距離が縮まるごとに脈が早くなる。落ち着けと何度自分に言い聞かせても言う事を聞かない。この体は馬鹿正直なんだ。
とうとう北大路は俺の席の前で立ち止まった。
「蒼井晃くんだよね」
平常心を装って「そうだけど」と一言返す。自分の体が北大路の体に包まれているのに気付いたのは、体温が伝わってきてからだった。
思考が停止して、今起こっている事を理解するのに時間がかかった。女子達の黄色い声が現実に戻す。
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