プロローグ

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プロローグ

マリーが山を登っていく。 宇Tubeの画面いっぱいにグレイ王国の美しい山々が映し出された。 山なんかよりマリーを映せよ。 チッと、イゴールは舌打ちをする。 カメラが再びマリーを捕らえ、イゴールは思わず目を逸らした。 たくましい体つきに濃い体毛、さらに目鼻立ちまで立派な男が、マリーの手を引いている。 彼がマリーの婚約者、この国の王子にあたる男だ。 グレイ王国では山頂にて夫婦の契りを結ぶ風習がある。 王子に導かれ、ついにマリーは頂上に到達した。 白いワンピースに泥だらけの木靴を身につけたマリーを、イゴールは画面越しに見つめるしかなかった。 マリーの表情は硬い。 イゴールは、マリーの輝かしい未来がここで絶たれてしまったことを理解する。 結婚とはもっと幸せな事であるべきではないのか。 どうして、こんなことになってしまったんだ。 学校を卒業間近、マリーにプロポーズをする輩がごまんといた。 マリーのことをろくに知りもせず結婚を申し込んだ彼らは、妻は顔が良ければ何でもいいらしい。 マリーは途方にくれたはずだ。この国では女性が求婚を断ることはできないのだから。 できるのは、プロポーズを同時期に受けた際、相手を選ぶことだけだ。 イゴールは胸の辺りを押さえる。(えり)がしわしわになった。 マリーは彼を選ぶしかなかった。 この国の王子を。 宇Tubeの中でマリーは泣き崩れた。 みんな嬉し泣きだと勘違いするだろうがイゴールは知っている。 マリーはこんなこと、望んでいなかったのに。 イゴールは握りしめた拳で布団を殴りにかかった。 大嫌いだ。 自分も、国も、この星も。 強者が弱者を踏みにじる、この宇宙全部が。 大嫌いだ。
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