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#0「始まるは国王選挙」
東アジアの或る国が事実上崩壊して半世紀。
『王輝明学園』で、歴史に刻まれるだろう大事件が、今まさに始まろうとしていた。
全ての始まりは王輝明学園3年KILL組 女子。
出席番号14番、17歳。
『鳳凰院 美綺瓊』の生徒会会長演説からだった。
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【6月10日(火) 午前8時59分 王輝明学園 / 体育館】
体育館の入り口から壇上まで直線に引かれたランウェイ。
鮮血を彷彿とさせる真紅のカーペットが引かれたそのランウェイは、如何なる理由があれど、この学園でただ一人の人間を除き、踏むことも手を触れることすらも固く禁止されている。
そして体育館に集められた459人の全校生徒たちは、体育館を縦に二つに割るその勝者の道を取り囲み、その時が来るのを今や今やと待ち構えていた。
時刻は午前9時。体育館の照明が一気に落とされる。
暗闇に包まれた空間には、一瞬と驚きと、予想しえるその後の展開に期待感がこだました。
同時に突然鳴り響くファンファーレ。
スポットライトが入り口を煌々と照らす。
光の中心には彼女が立っていた。
この学園トップの称号、つまりは《生徒会会長》の座を手にし、唯一ランウェイを踏むことを許された人間。
『鳳凰院 美綺瓊』その人こそが美しくも、凛々しく、光を体全身に浴びながら。
美綺瓊は459人の視線を一斉に集めながらもランウェイの上を歩んでいく。
彼女の制服の胸元に付けられているはエンブレムバッジ。
王冠と学園の形を金とダイヤモンドで模した職人の技が随所に光る一品。
彼女が生徒会会長である証明。全校生徒が羨むべく存在。
これまさに《生徒会バッジ》であった。
しかし、彼女のランウェイを歩むその大胆かつ優雅な動きには、バレリーナの如く、いささか余分な動作が多かった。
それだから彼女は気が付かなった。
ランウェイの上に彼女が大切とする《生徒会バッジ》が落ちたことに。
「び、美綺瓊先輩……ッ!!」
一人の男子生徒がそのことに気づき、ランウェイの外からバッジを手に取ると美綺瓊のことを呼び止めた。
「バッジが……バッジが落ちました!!」
美綺瓊は優しくも美しく微笑みながら、男子生徒が伸ばした手の中にあるバッジを貰い受ける。
「あなた、名前は?」
美綺瓊の質問に、男子生徒は緊張しながらも「1年DEATH組 出雲 今市」と名乗る。
「出雲君、生徒会バッジを拾ってくれて感謝してるわ」
そう言って美綺瓊はニコリと微笑む。
まるで今まさに眼前に天使が舞い降りたかのような、優しくも高貴なる笑み。
出雲はあまりの敬嘆に言葉を失う。
「でもね出雲君、この『生徒会バッジ』に触れることが許されているのは生徒会会長に選ばれた人間だけなの」
顔に浮かべた笑みは崩さずに、美綺瓊は淡々と言葉を綴る。
「出雲君、あなたはまだ1年生だから、そのルールを知らなかったかもしれないけど、これはあなたのようなただの一般生徒が触れて良いものではないわ」
そう言って、美綺瓊は制服の内ポケットからピンク色に塗装されたデザートイーグルを取り出し、出雲の頭に銃口を向けた。
その顔に、同じ人間とは思えないほどの完璧な笑みを張り付けたまま。
「……?」
自分の頭に向けられている物は一体なんなのか。これから何が起きようとしているのか。
それを出雲が理解するよりも前に『どん』と破裂するような轟音が響く。そして彼の頭は吹き飛んだ。
「……!?」
辺り一帯に血と出雲の肉体だったものが、まるでバケツからぶち撒けられたかのように飛び散っていく。
予想できることだったとはいえ、近くにいた生徒たちは突然の出来事に小さな悲鳴を上げた。だが、すぐその後、体育館の中に広がったのは歓声だった。
あまりにも唐突で、無慈悲で、寸分の無駄も無いその美しい光景に生徒たちは歓声を送る。
拍手喝采。鳴り止まぬその中で、美綺瓊は生徒会バッジを襟につける。
そして、彼女が片手を上げると、時が止まったかのように、一瞬にして静寂が体育館を再び包み込んだ。
「いいですか、王輝明学園生徒諸君! 我が学園は次なる王の育成、且つ選出の場!!」
美綺瓊はランウェイを歩きながら、言葉を続ける。
彼女の声は、襟につけられたピンマイクに拾われ、体育館の中に大きく響き渡る。
「そして先日、この国の初代国王が引退を表明されました! 故、この国、この学園の規則に則りここに宣言します……」
―――我が校で《国王選挙》を開催します!!―――
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