#9「真紅の薔薇」

5/8
前へ
/239ページ
次へ
【☓月☓☓日(☓) 午前11時31分 / 廊下】 この中の誰かの命……。 なんとなく、予想はついていた。 今日、この数時間で起きたことを考えれば、如何にも言ってきそうな言葉だった。 「クククッ……つまり、この中の誰かが死ねば、他の人間は助かると?」 黒幕の質問に、キスラビットは「その通りです」と答える。 『皆様の誰かが、ドカンちゃんについた赤いボタンを自ら押し、命を支払っていただくことにより、他の皆様はコンテニューすることが出来るのです』 「……なるほど」 しかし、こんなやり取りをしている最中も、僕たちのドカンちゃんは荒々しく警告音を鳴らし続けていた。 『さぁ、時間がありません。皆様のドカンちゃんが爆発するまで、あと44秒』 コンテニューと言っても、ルカは死んだ。 マーガリートも死んだ。 いくらやり直したからといって、彼女たちが戻ってくるはずはなかった……。 『さぁ、決めてください。自らの命を絶ち、お友達を助けるのか、あるいは、ここで全員ゲームオーバーになるのかを!!』 コンテニューという言葉が示す意味、それは分からない。 でも、僕たちには迷っている猶予なんて無かった。 「これは一体、どうすれば……ッ!?」 周りの考えを伺うように、鬼瓦が辺りを見回す。 でも、答えを出せている人間なんているはずもなかった。 僕一人を除いては……。 「僕が……死ぬ」 僕は誰に言うでもなく呟いた。 「……えっ?」 鳴り響く警告音に掻き消されそうだった。 だから、今度はさっきよりも大きな声でハッキリと言う。 「僕が死ぬ」 僕の体内時計が狂ってなければ、残された時間はあと《38秒》程度。 僕は自分のドカンちゃんの赤いボタンに手を掛ける。 「乙木……ッ!?」 当然のように……というと自意識過剰かもしれないけど、ミカンはそんな僕の行為を止めようとしてくれる。 僕は首を横にゆっくりと二回振った。 「こうなってしまったのは僕の責任だ……。あのとき、僕がルカとキスをしなかったから……」 もし人生をもう一度やり直せるとしたら、僕はあそこでルカとキスするだろうか……。 キスしなければ、ルカは死んでしまうことになる。 キスすれば、学園ミッションをクリアすることが出来る。 でも、それでも、こんなこと思うこと自体狂っているのかもしれないけど、僕はもう一度人生をやり直せたとしても、ルカとキスする選択は選ばなかったと思う。 だから僕は後悔なんて、何一つ無かった……。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加