歩きたい

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歩きたい

  はっ …はっ … ひー はっ …はっ …ひー ・・・なんで ? 脚に力が …… 入らない。 はっ … ひー はっ … ひー はっ … ひー ・・・足にきてる ? 飛ばし過ぎて ? 灰原さんがどんどんと遠ざかる。 はっ … ひー はっ … ひー はっ … ひー どうしよう。 ・・・ ・・・つっ ! 右の …… 太腿の裏。 ハムストリングスが …… ズキズキしてる。 ひっふー ……ひっふー ……ひっふー ・・・呼吸も 急に苦しくなって来た。 「にじゅうにばーん ! 」 「ガンバレー !」 「あと800メートル !」 「にじゅうにばーん ! 」 「後ろから来たぞー !」 「ここ、ふんばりどころだぞー !」 「にじゅうにばーん ! 」 ひっふー ……ひっふー ……ひっふー ・・・だめかも 足が …… 言う事聞かない。 ・・・なんか 集中も出来ない。 すぐ後ろにランナーの気配がした。 「来たぞー !」 「頑張ってー ! 」 「にじゅうにばーん ! 」 ・・・わかってるけど ・・・頑張ってるけど わぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー ! もう気が狂いそう。 右腿を叩いてみた。 感覚がなかった。 ひっふー ……ひっふー ……ひっふー 「あと600メートルだぞ !」 「ガンバレー !」 「ファイトー !」 ・・・わかってる …んだけど …… ・・・うーっ ひっ …ひっ …ひー ひっ …ひっ …ひー ・・・くっそー ・・・まだ、頑張れる 真後ろに気配がした。 ランナーの息づかい。 ・・・抜かれる ああぁぁーって、ため息みたいな声が渦巻いてる。 ・・・わかってる ・・・抜かれたらダメだ 抜かれたら、もう …… 走れなくなりそう。 “ 限界を恐れない ” そう決めて、飛ばして来たんだ。 これからが本当の勝負。 もう一度、右腿を叩いた。 ・・・抜かれない ・・・抜かれたらダメだ ・・・灰原さんを追わなくちゃ 10メートルくらい先。 灰原さんの背中が …… 14番の背中で隠れた。 ・・・えっ ? 抜かれた ? 14番の背中が …… 34番の背中で隠れた。 ・・・えっ ? ああぁぁーって、ため息みたいな声が頭の中で渦巻いてる。 ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ! ぼくは唇を噛み切って …… 34番の背中に追い縋った。 ・・・でも 脚に力が入らない。 ・・・ 34番が …… 視界から消えた。 ・・・ 苦しい。 足が痛い。 からだが重い。 もう走れない。 もう充分 …頑張った。 ・・・ダメだった ・・・やっぱりぼく ヘタレだった。 ・・・もう 歩きたい。 もう …… ムリ。 “ ウォン ! ” ・・・ “ ウォン ! ” “ ウォン ! ” ・・・えっ ? 何 ? 犬 ? “ ウォン ! ” “ ウォン ! ” “ ウォン ! ” ・・・あれっ ? ポロン ? 顔をあげると…… 巨大な山男が嬉しそうに …… ぼくに Vサインを向けていた。 ・・・タカさん ? ・・・えっ ? ・・・ポロン ? ・・・へっ ? タカさんとポロンの顔が並んでる。 ・・・へっ ? 大きなリュックから …… ポロンが顔を出して …… ぼくを見て …… 笑ってた。 ・・・あっ ! ぼくを見て、急にリュックの中でモゾモゾしだして …… 前肢がピョンと出てきた。 リュックから出ようと、前肢をジタバタさせている。 「こら ! ポロン、見つかったらヤバい」 タカさんが焦って前肢をしまっている。 ・・・ははっ ・・・マジで ? ・・・心配気なオッドアイ ぼくはポロンの目を見て頷いた。 ・・・大丈夫 ポロンがニコッとした。 「けっこう頑張ってるじゃんか」 タカさんの声に、ぼくは力強く頷いてみせた。 ・・・もおー、信じられない ペット持ち込み禁止なのに …… 刑事が規則破っちゃダメでしょ。 ・・・あははっ タカさん大胆。 ・・・よしっ はっ …はっ …はっ …はっ はっ …はっ …はっ …はっ ・・・あれっ ? なんだか呼吸が楽になってる。 ・・・あれっ 脚が軽くなってる。 痛くないかも …… ・・・不思議 ・・・なんだかちょっと元気な感じ 顔を上げたら競技場が見えた。 あと400メートル。 15メートルくらい先に、灰原さんの背中が見えた。
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