ぼくなりの一生懸命

1/1
前へ
/103ページ
次へ

ぼくなりの一生懸命

   はっ …はっ …はっ …はっ 1000メートルをかなりのペースで駆け下りた。 すぐ後ろにランナーの気配はない。 10メートルくらい後方で歓声が聴こえる。 ずいぶんと差をつけた。 14番と34番はまだ様子見かも知れない。 ぼくにしては、かなりのハイペース。 無謀なのか、無茶なのか …… よく分からない。 太腿あたりが悲鳴をあげてるけど、脚はよく動いていた。 灰原さんの 3メートル後ろ。 いつか離されるだろうけど、付いて行ける内は離れない。 そう決めた。 大きな左カーブが見えて来た。 中間地点を通過した。 1500メートル。 ここまでは付いて来れた。 出来れば競技場までは食い下がりたい。 競技場には、大切な仲間がぼくを待っている。 大好きな家族が待っている。 そして …… タカさんとヒロさんも …… 6年の時 …… ヒロさんと走った早朝ランニング。 「走ってて、もうこれ以上はとてもムリって思う時あるよね ? 」 「そう思った時に、自分自身に対してカッコつけて “ まだまだ ” って言い聞かせて、やせ我慢して頑張る。そこで頑張れたら自分がまた一つ強くなれた気がするんだよね」 「自分が “ また一つ強くなれた ” って思える満足感とか充実感とか …これがね ……」 「すごくいいんだよね 」 「走るって大変だけど、やっぱり頑張れたら気持ちいいよね」 あの時はよくわからない言葉だった。 “ 変な人 ” なんて思ってた。 でも …… 死にそうになりながら、初めて最後までヒロさんの背中から目を逸らさずに走り切れた日。 庭の柿の木の下に転がり込んで、ポロンと一緒にキンキンに冷えた水を飲んだ。 ・・・うまかったなあ ・・・気持ちよかったなあ 「気持ちいいね」 そう言ってぼくを見るヒロさんのキラキラした瞳が潤んでた。 ぼくは …… たぶん灰原さんのスパートには付いて行けない。 ぼくにあんな爆発力はない。 でも、みんなが待っている競技場までは付いて行くんだ。 ぼくなりの一生懸命を …… 仲間に … 家族に … タカさんとヒロさんに見てもらうんだ。 はっ …はっ …はっ …はっ また大きな左カーブ。 カーブを抜けて、その先を右に折り返すと、いよいよ競技場へ戻る。 カーブを抜けたら、左に14番が見えた。 5メートルくらい遅れて34番が続いている。 いつの間にか 3位に15メートルくらいの差をつけてた。 はっ …はっ … ひー はっ …はっ …ひー 灰原さんが折り返した。 一瞬、灰原さんの姿が消えた。 あと1000メートル。 ぼくもすぐに折り返す。 ・・・あれっ ! 折り返すと灰原さんとの間隔が開いていた。 いつの間にか 5メートルも …… ・・・いつの間に ぼくは間隔を詰める為に、ピッチをあげ …… ・・・ ・・・あれっ ? 足が …… 動かない。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加